キッチンと食堂に辿り着いた頃にはいい具合に小腹が空いてきていたので、中の詳しい説明のついでに紅茶を淹れてお茶の時間にすることにした。わたしが冷蔵庫にあった洋菓子とそれをトレーに乗せキッチンから運ぶ間にベルくんは近くを歩いていた隊員と何か話していて、相手の背筋の伸び具合からして業務連絡か何かだろうと推測していた。「俺と一番近い部屋ね」「ハッ!」ビシッと返事をして駆け足で退散していくその人を目で追いながら、長テーブルにトレーを置く。


「なんの話?」
の部屋のこと。今日からこっちで寝泊まりするっしょ?」
「え!じゃあ荷物持って来なきゃ」
「あっち戻るより下ったとこの町で買った方が早くね。あとで行こ」
「お、うん…」


 ……なんかさっきから、何もかもベルくんに任せてる気がする。いくら初日だとはいえ、もう少し自分でやれることはやらないと怒られるんじゃないかって落ち着かない。使えねーなって誰かに追い出されそうでそわそわする。ベルくんの向かいに座り、それからハッとして顔を上げる。


「じゃあさっきの人は…」
「あ?空き部屋の掃除させるだけだけど」
「わたしやる!」
「いーって。あんなん下っ端にやらせとけば」
「で、でもわたしが借りるんだし」
「どーせ幹部の宿舎なんて部屋作るだけ作って使ってねーとこばっかだし。そんな大してやることもねーよ」


「そーだ。家具とか買う?多分部屋空っぽだし」いとも容易く丸め込まれ、それには渋々と頷く。よくよく考えてみたら、幹部と同じ宿舎を借りる時点でおかしい。わたしはベルくんの部下という位置づけでここに異動したはずなのに、さっきからこう、扱いがまるでビップだ。よくないんじゃないか、何かおかしい。肩をすくめ、俯く。
 ソファとベッドとカーテンと、とつらつら挙げていくベルくんを目だけで見遣る。わたしはボンゴレ本部で、ベルくんの言うような下っ端として働いてきた。守護者のみんなとの距離は近かったけれど偉さ的には下っ端が妥当する。命令される立場だし雑用はもちろん自分のことは自分でやる。だからこういうのは慣れない。


?」
「…あの、わたしも下っ端だから…」
「ん?」


 きょとんと首を傾げるベルくんが不謹慎にも可愛いと思ってしまう。違う、今はこの扱いをやめてもらわないと、ビップ待遇に相応しい力も何もないわたしには落ち着かない。誰かに怒られる。


「偉くもないのにこんな特別扱いされる理由がないというか、他の人に迷惑というか」
は俺の特別だから大丈夫っしょ」


 そんなことを軽々しく言えてしまうベルくん。ベルくんはときどきこういうことをあっけらかんと言ってしまう。それにわたしはいちいち照れざるを得ない。「そ、ういうもんだいでは、」思いっきりどもるが、ベルくんは何てことないように紅茶を啜った。


「んー…よくわかんねーけど…じゃあ外堀埋めとく?」
「へ?」

「あらベルちゃん!頼まれてた任務もう終わったの?」


 二人同時にそちらを振り向く。食堂の入り口に立っていたのは、よく目立つビジュアルのルッスーリアさんだった。「外堀一号」わたしにだけ聞こえるように呟いた彼はやっぱり楽しげだ。


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