「………うん。すきだ」


真摯に見つめる先にいる、その相手が誰なのか知りたいと思ったんだ。

は少し前に失恋して、今でもすきだと言っていた。経緯を自分から話しはしなかったから、掘り返すのはよくないと無意識に思ったのか、そもそも聞ける雰囲気じゃなかったからかこちらから聞きはしなかったけれど、昨日から妙に気になるようになってしまった。二限の授業は退屈で、頬杖をつきながら首を左に捻る。一つ前の列の窓際に座るは黒板の板書をせっせとノートに書き写していた。ここから見る限りいつもと変わらない様子だ。よかった、目が腫れでもしていたら、きっと自分はもっと責任を感じていたに違いない。
昨日が泣いたのは俺のせいだ。報われない不毛なことをしていた俺には見捨てることなく付き合ってくれた。鋭い彼女は俺が報われないとわかっていながらも気の済むようにすきにさせ、決して止めようとしなかった。すごく有難かった。だから、できることならいい報せを聞かせたかった。もちろん自分のためであるのは大前提だったが、ずっと話を聞いてくれた彼女を報いたかったのだ。
けれど結果、には嫌な思いをさせただろう。泣かせもしてしまった。目を逸らし、写すだけ写した板書をぼんやり眺める。……俺のつらいのを、肩代わりさせちまった。本当に迷惑掛けたなあ、今度何か奢ろう。

昼休み、購買からの帰り道に廊下を歩いていると前方にを見つけた。特に何も考えず追い掛け「よお」と肩を叩くと、驚いた顔のが振り返った。


「よ、よお…」
「なに驚いてんだよ!一緒に教室戻ろーぜ」


は俺をうかがうように頷き、それから前を向いた。そこで俺はやっと昨日の帰りの会話を思い出したが、しかし自分のやったことは言ったことと何も反してないと思い「俺ら友達だろ」と念を押した。は目だけで俺を見て、それから嬉しそうな悲しそうな表情で、うんと頷いた。とにかく笑ったのが妙に嬉しかった俺は元々悪くなかった気分がさらに良くなり「よし!」と背中を叩くとはよろけてしまったけれど、やっと調子を取り戻したらしくさらに砕けた笑顔を見せた。こいつと話すのはいつも楽しい。はいい奴だから、こいつのすきな人もきっといい奴なんだろうと思う。それが誰なのか、やっぱり知りたいと思うのだが、しかし考えてもちっとも思いつかなかった。


「なーおまえ誰すきなん?」
「え、…教えないよ」
「んーだよなあ」


試しに聞いてみたけれど返事は予想できていた。そう簡単に教えてもらえるわけがない。自力でわからないといけないんだろうなと思う。だって自力でわかったわけだし。「べつに気にしないでいいよ」「そうはいかねえ!」気にするなと言われると余計気になるのが人間ってもんだろ。教室に着きと別れ、自分の席に座ってまた考えてみるけれどやっぱり一人も思い浮かばないのだった。腕組みをして首を傾げる。


「んー……」
「綱海さー」


ん?気付くと机と机の間の通路に仲野が立っていた。イチゴミルクが好物らしいとから聞いたことがあるそいつは今も紙パックのそれを片手に俺を見下ろしていた。は仲野まりとよく一緒にいるけれど、こいつと話したことはそう多くはなかった。そのせいなのか、何というか、掴めねーんだよなあ。「なんだ?」女子にしては背の高いそいつを見上げると、仲野は意味深な笑みを浮かべていた。


「なんでそんなにのすきな人知りたいの?」
「……」


さてどうしてだろう。