綱海は分け隔てなくみんなと仲良くして滝口さんにもそうやって接している。明るくて人畜無害な性格であるし、自分からわかりやすいアピールをするのは違うんだよなあと申していた彼なのでそうなるのは当然なのだけれど、でも多分無意識の内に滝口さんにだけ特別優しい。誰にもわからないくらい。(もしかしたらわたしが僻んでるだけかもしれないけれど)
わたしにしか勘付かれてないそれをわたしも知らない振りをする。綱海に言ったらどうなるんだろうか。想像したけど綱海にとって悪い方にしか進まない気がするから黙ってる。わたしは専ら綱海のためにということを考えてるのだからそうなる。そして懲りずに屋上で相談会を開いている罪悪感。下心がどろどろ体中を巡ってる気がするのだ。こんな無駄なことさえ、今のわたしには捨てられない。


「今日滝口が進路委員で重い荷物運んでたからさー持ってやったんだよ」
「(すごいな)」
「したらよー何つったと思う?」


わかるわけないだろうが。深く考えないで悪態を唱える。わたしは滝口さんじゃない。そういう問題でもない。綱海は自嘲気味に頬杖をついた。フェンスの手前にある鉄格子。わたしも何となく手を置く。


「ありがとうって。綱海優しいねーって言われた」
「よかったじゃん」
「いい彼氏になれるよとも言われた。すげー何でもないように笑ってさ。まじさー怒ってやろうかと思ったぜ。ちょっとは俺のこと考えろよとか思っちまった」


横目で捉えた綱海は普段の彼からしたら到底縁のない、儚げな表情をしていた。だったら自分からアピールすればいいんじゃないか。何にもしてないのに伝わるなんてそんなことあるわけない、良くも悪くも。滝口さんからしたら、おまえが重いものを持ってくれることが自分だからなんて思わないよ。現におまえは滝口さんじゃなくても持つだろ。そんなんで滝口さんに俺のこと考えろ、なんて虫がよすぎる。でもきっと綱海はそんなことわかってるだろう。「それは思うよ」わたしも思ってる。


「言わないとわかんないものだね」


当事者は気付かない。滝口さんも、綱海も。

最初の方に告白しないの?と聞いたことがある。でもそのとき綱海はしねえよと笑ったのでそれ以来聞いたことはない。深く突っ込んでもいけないと思った。


「綱海はほんと滝口さんのことすきだよね」
「まあな…報われねえけど」


彼はわたしの気持ちも代弁してくれる。