「あんたはそれでいいの」


唯一の理解者であるまりちゃんはイチゴミルクを飲みながらそう言った。「それ」とはわたしと綱海の現状でありぼんやりとしか話してないけどわたしが今綱海関連で何も得をしてないし将来的にもする見込みがないことはわかってるそうだ。一緒に購買の前に設置されてる自販機に飲み物を買いに行ったあとだったのでわたしの手にも紙パックのりんごジュースが握られていてまだ中身が入ってるのに角の折れ曲がったところを開いてしまう。手持ち無沙汰がわたしをそうさせた。「いいんだよ」まりちゃんに言ったのはわたしが綱海をすきなこととわたしは絶対にうまくいかないんだけど話を聞いてあげてることなのだけどもしかしたらそれ以上に深いことを彼女は気付いてるのかもしれない。ていうかうまくいかないって言ったら綱海が引っ越すとか彼女がいるとかすきな人がいることぐらいだ。綱海じゃなくても比較的男女間の仲がいいこのクラスなら誰と誰が付き合ってるとかいう情報は割とすぐ広まって公認カップルになるし引っ越しなんて隠すものでもないからそんなのないしていうか綱海自身が高校進学と同時に東京に引っ越してきた身なんだから早々に二度もしないだろう。つまるところ手っ取り早く綱海にすきな人がいるという結論に行き着くことができる。勘のいいまりちゃんなら尚更だ。


「やめちゃいなよ、そんなの」
「…何を?」
「綱海をすきなこと。辛いだけじゃん」
「わかってるけどさあ」
「わたしなら冷めるけどね」
「…冷められるもん?」
「だってそんなんさあ…どうすんの。諦めさせるわけでもなく」


そうだけど。「諦めさせれるわけないよ」綱海がわたしという外力で意志を変えるわけがない。そういう人間じゃない。
まりちゃんはもう片方の角もパリッと剥がしたりんごジュースを見て訝しげに顔をしかめたけれどそれ以上は「まあどうでもいいけど」と言って言及しなかった。結局のところまりちゃんは人の恋路に興味がないのだ。それがありがたくてわたしはまりちゃんにだけこのことを話した。

ちらりと綱海が座ってる方を見ると後輩と何かしゃべっていた。分け隔てない男だからわたしとも元からしゃべる仲で、相談役もどきになってからもそのままで周りに別段不思議がられてない。高校は付き合ってもない男女が二人で帰っても問題じゃない。…これは綱海だからかもしれない。決して綱海がタラシとか女好きとかってわけではもちろんない。綱海は本当に、みんなに同じように接するのだ。接するだけでさすがに女子と二人っきりで帰ることはわたしと以外ないらしいけど。それがわたしの希望であるかと言われたらもちろん首を振る。


「…わたしは考えるべきだと思う」


わたしが冷める確率と、綱海がうまくいく確率について。