「なーんかなあー」 サッカー部は今日は定休日らしくいつものエナメルに代わって紺のスクールバッグが綱海の机に置いてある。こいつのことだからキーホルダーとかじゃらじゃらつけてそうなのにそこには何もついてなく、無用の銀の金具だけが放課後の西日に照らされてぴかりと光っていた。 だらしなく机に寝そべっていた綱海はそのあともしばらく動かなかった。わたしはそれを一瞥、携帯を開いたあと黒板の上に掛かっているアナログ時計を見て今の時間が五時五分前だということを確認する。そろそろ帰ったほうがいいかもしれない。 「もう帰る?」 「んあ?…ああもう五時かあ」 「うん」 綱海は起き上がって頭をがしがし掻いた。彼が立ち上がる前にわたしが立ち上がって教室の電気を消す。「あーわりー」「んー」このやりとりも何度目のことだろうか。 綱海のすきな人が滝口さんだと知って本人に確認が取れてから、わたしは綱海の相談役となっていた。相談といってもわたしは滝口さんじゃないのであんまり偉そうなことは言えないし綱海もわたしが滝口さんじゃないとわかってるから具体的な相談はしてこない。というかよくよく思い返しても大した相談というものをされたことはなかった。ほとんど話を聞いてるだけだ。それもそんな綱海の恋路について話題があるわけでもないのにちょくちょく相談会が開かれるのは綱海のせいでもありわたしのせいでもある。つまり気付けば無駄話を話し込んでたりする。 夕焼けはどうにも眩しいのでなるべく見ないように下を向きながら歩く。わたしと綱海の影も一定距離を開けて歩いている。 「俺空回ってねえかな」 「空回ってはないよ」 空回ってるんじゃない。けれど滝口さんは綱海に見向きもしてないのはすぐわかる。綱海もわかってる。綱海とわたしの現状把握能力は同じぐらいだ。ただわたしの方が当事者ではない(……)だけ冷静に全体を見渡せてるから多分、綱海の知らないことをわたしは一つだけ知っている。ただしこれは言ってもどうしようもないことだろうから綱海には言ってないのだけど。 「……綱海は、人がいいんだよ」 つまり本当はこいつはわたしなしでだって全然大丈夫なのだ。相談役をわたしじゃないとしても誰かが担う必要はないのだ。だって綱海は一人でも頑張れる。わたしは何にも手助けできてない。したくてもだからわたしは滝口さんじゃないから、変なこと言って綱海を惑わせたくないし。だから割と最初の方にわたしと話してると誤解されるかもよと釘を刺しておいたのだけどあっさり大丈夫だろと笑われたのでお言葉に甘えて今日も綱海と帰っている、のは、つまり、 綱海は嬉しそうににかりと笑うのだ。 「おまえほんといい奴だよなー」 まあ、そういうことである。 |