今日は朝一番の任務が終わったら午後はフリータイムと決まっていたのでわっほーいと飛び跳ねながら執務室へ報告しに帰るとタカ丸さんの姿が見えなかった。


「え!タカ丸さんさぼり?!」
「違うよ〜…いるよここに…」
「どこに」


「ここー」と手が見えた。どうやらタカ丸さんは机に山積みになった書類の向こう側にいるらしい。伏せていたのもあって彼の姿が見えなかったけれど背筋を伸ばしても顔しか見えないほどに書類が積まれていた。三回瞬きをして「え?!」と叫んだわたしは慌てて駆け寄った。


「何が起こったんですか!」
「なんかねーいきなり回って来ちゃったんだよね」
「おかしいでしょこの数は」
「でもさっき神崎くんが持ってきたんだよ」
「は、左門が?」


それは妙ではないか。書類は大抵隊の順番どおりに回るはずだ。十番隊の左門が八番隊に持ってくることなんて滅多にない。嫌な予感がして一番近くにあった書類を取って見てみた。「これ十一番隊に回すやつですよ!」「ええっ…あ、これもだ」見るとタカ丸さんのサインがしてあるそれは本来十一番隊の七松隊長がするものだった。つまり書き損じと同じ扱いになるのでその書類は書き直さなくてはいけない。


「確認してから書いてくださいよ…」
「ごめんごめん」
「はあ…じゃあわたしは無事なのを十一番隊に渡しに行きます」
「え!いいの?」
「いいですよ。タカ丸さんは書いてしまったやつを直しててください」
「ありがとうちゃん」


タカ丸さんはやはり事務仕事が苦手なようでこの手の間違いは何度と冒す。今日はわたし、事務仕事は免除だったのだけどこの調子じゃいつもと変わらないなあ。終わり次第どっか甘味処にでも行こう。よしやる気出てきた。
一度に全部は運べないので数回に分けて持ってくことにする。適当に取るとその下の書類が目についた。……ん?


「これは十二番隊に渡すやつだ」
「あ、そういえば次屋くんと神崎くん一緒に来たんだった」
「……」


ぱらぱら見ていくと十一番隊に回す物、十二番隊に回す物、更には十番隊の物まであった。…つまり?潮江隊長が書き終えた物、七松隊長が書き終えた物、九番隊が十番隊に回した物の三種類がごっちゃになっているということだ。ふざけんななぜ混ざるんだ左門と三之助に渡した奴ら全員ここ並べそしてわたしに殴らせろ…!
ということで半ギレ状態で分別をし、やっと三つの山に積み直しそれらを運ぶことが出来た。途中会った尾浜隊長が白々しく「ああ左門に渡した」とかほざいたので脛を蹴っといた。
何往復もし、あとはこれを十二番隊に渡せば完了なのでそのままどこか行こうと思う。タカ丸さんは自分が直してる書類は自分が渡しとくと言ってくれたので。時計を見ると三時だった。余裕だ。


「じゃあこれ渡しに行ったらどこか休んできます」
「うん。ごめんねちゃん、手伝わせちゃって」
「いえ、わたしはタカ丸さんの部下ですので」


へにゃりと笑ったタカ丸さんに半ギレ状態が緩和された。院生時代からこの人の笑顔は変わらない。
がしかし十二番隊である。実はわたしこの隊が苦手で、極力近寄らないことにしてる。いや隊自体が苦手なわけではないのだけど。


「(うまく藤内に渡せれば…)」
「何をしている」
「!!」


危うく書類を落としてしまうところだった。ギギギと古びた機械よろしく、振り返ってみると案の定そこにはわたしが避けてた人物が堂々と仁王立ちしていらした。おおお今日も麗しいですねごきげんよろしゅう。


「こ、こんにちわ立花隊長」
「ああ。珍しいじゃないかがうちに来るなんて」
「(ですよね)いえ、三之助が八番隊に回し間違えていたので」


バッとそれを差し出すと立花隊長は眉をひそめ「…またか」と呟いて受け取った。はいまたです。


「ご苦労だったな」
「いえ。ではしつれ」
「まあ待て」


お辞儀をした状態で後頭部を押さえ付けられた。押さえ付けられたというか頭鷲掴みされてる。「折角来たんだ。先程完成したばかりの私の薬を試してみないか?」来たあああああ!!!出ました立花の人体実験!!いつも突っ込んでるけどそれ完成してないだろ?!完成したかどうかはわたしでわかるんだろ?!だからここ来んの嫌だったんだよもう怖い!技術開発局怖い!


「け、結構です」
「遠慮はいらんぞ。さあこっちだ」


やばいなんか手首掴まれて連行されてるんだけどやばいこれはやばい。逃げなきゃわたしに明日はない!「そっ」思いっ切り手を振り払った。立花隊長が振り返る前に踵を返す。


「総隊長に呼ばれてるので!」


もちろん嘘である。

「…あいつ瞬歩上達したな」立花隊長がそんなこと言って不敵な笑みを浮かべてたことなんてもちろん知らないわたしは苦手な瞬歩を使ったおかげでひどく疲れた。忘れているかもしれないがわたしは午前中は任務だったのだ。それだけで疲れてるのにこの仕打ちは何だ。いじめか。ため息をつくと向こうから作兵衛が爆走して来るのが見えた。


「あ、先輩!」
「やあ」
「すみません左門と三之助探すの手伝ってください!」


今日は厄日か。

どうも至急だったらしく断れなかった。(というか半泣きの作兵衛が不憫すぎて断れなかった)二時間の捜索の末無事保護できたのでよかったがどうやらこの二人、うちに書類を置いていったあとから行方知れずだったらしく、わたしがそのことを話してやると何のことだかわかんないといった顔でとぼけやがったので殴っといた。 ということで気付けば五時を過ぎていて、若干萎えながらも当初の目的である甘い物を食べようと九番隊の隊舎前を歩いていると突然誰かに後ろ襟を掴まれた。そのまま引きずられる。ま、まさか立花隊長?!と苦しくも振り返るとそこには


「たっ滝?!何すんだよ!」
「すまない。瀞霊廷通信の編集作業手伝ってくれ」
「は?!やだよなんで!」
「さっき尾浜隊長蹴ったらしいな」
「だってあの人のせいで」
「目上の人に何してんだ馬鹿か。まあそんな根に持ってるわけじゃないが」


ずるずる引きずられあっという間に九番隊へ。きっと尾浜隊長は滝夜叉丸の言ったとおり根に持つような人ではないから、ただわたしを引き込む口実にしただけだろう。瀞霊廷通信の発行前になると九番隊は猫の手も借りたいほど忙殺される。そして猫が捕まらないので八番隊副隊長の手を借りることはよくあることであった。ああわたしの半日休暇…さらば。


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