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火曜日は授業が六限までなので月曜や水曜に比べると時限数的には楽なのだけど、科目は一週間で一番重いので毎回六限が終わる頃には眠気がマックスだ。帰ったら寝てやる、と心に決め帰路を辿り、部屋に着くなりカバンをそこらに放り投げて即行でベッドにダイブした。スカートのまま寝るなとよく怒られるけど気にしてられない。目を閉じるとすぐに眠りについた。

二階に上がってきたらしい母に起こされたのはそれから三時間後の七時だった。ぼんやりとした頭で時計を見上げ、お風呂入っちゃいなさいという声に耳を傾けた。すっきり目覚めた試しのないわたしはうんと頷くだけだ。まだ眠い。


「あとタオル。洗ったからまーくんに返しなさいよ」
「…あ、忘れてた…」


そうだ、昨日借りたスポーツタオル返さないと。ぼさぼさになった髪を手ぐしで梳かしながらまだはっきりしない思考回路で、ご飯の前に行っちゃおうと思いベッドから降りた。机には畳まれた洋服が置かれていて、その一番上に男の子らしいスポーツタオルが乗っかっている。それだけを持って家を出た。
お向かいの花宮家とは昔からの仲で、お互いの家に出入りすることも多い。そのため、今となってはまるで家と家が繋がってるんじゃないかというくらい花宮家の敷居を低く感じていて、気軽にお邪魔するようになっていた。どうせインターホンを鳴らしても出て来るのは花宮くんのお母さんだから、返すには部屋まで行くことになるだろう。花宮くんもう帰ってきてるかな、火曜日は確か、他の屋内部活との関係でそんなに遅くまでやらないはずだけど。

花宮くんの部屋の前まで行き、一応ノックをしてみたけれど返事はなく、まあいいか、と思いドアノブを回した。


「…寝てる」


なんでだろうと思ったらベッドで寝てたらしい。壁を向いて寝転がってるので真偽は定かではないけど、彼は下を部屋着に着替えただけで多分わたしと同じようにちょっと眠ってるんだろうと思う。とりあえず目的のスポーツタオルは机の上のネクタイの隣に置き、花宮くんの近くまで行って規則正しい寝息を確認した。掛け布団は足元に畳まれていて、風邪引かないのかなと心配になったけどすぐ起きるための防波堤なのかもしれない。背中を向けた状態だと髪の毛で顔が見えず、花宮くん、と一度呼んでみるもやはり返事はなかった。


(見たい)


好奇心に忠実になったわたしはベッドに乗り、花宮くんの顔を覗き込んだ。やはり髪の毛が邪魔をしていたけれど、彼の寝顔は熟睡中のそれで間違いなかった。
それにしても、と思う。綺麗な顔してるよなあ。整った横顔からじゃ、この人が普段他人の不幸をご飯にかけておいしく頂いてることなんて誰も想像できないだろう。そのくらい、花宮くんは綺麗だと思うのだ。
中学入学に合わせて買い替えたベッドは花宮くんの成長を見越して大きいサイズにしたらしく、彼が壁寄りに寝てるのも合わさってわたしが乗るスペースは十分に残っていた。縦幅は予測通り花宮くんに合った長さだけれど、横幅はこんなにいらなかったんじゃないかと思う。一人で寝るには持て余すだろう。
そして、何度か座ったり寝させてもらったことのあるこれは、高かったに違いないと思うくらい、とてもふかふかなのだ。いいなあ花宮くん。

花宮くんの顔を見てたらわたしも寝たくなってきた。いいかな、いいよね。逡巡する間もなく寝させてもらうことを決めたわたしは、花宮くんの足元に畳まれていた掛け布団を二人に被せるように広げ、花宮くんのすぐ隣に横になった。我が家のご飯はあと一時間くらい経たないと出てこないだろうし、お風呂はそのあとでもいいや。やっぱりふかふかのここは寝心地が最高である。

同じ方向を向いて花宮くんの背中に額をくっつけると、僅かなぬくもりが伝わってきて、幸福を感じた。