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「で、」


じゃんけんで負けたザキが全員分のバーガーや飲み物を運んできたタイミングで原が切り出した。昼休み終了間際に来たメッセージで部活後召集をかけられた俺たち三人は各々小腹を満たしながら奴の話に耳を傾ける。議題は事前に伝えられた通り花宮とさんについてだ。
その花宮はというと顧問と大会の手続きやら何やらでまだ学校に残っているらしく、マジバで駄弁る旨を伝えたところ気が向いたらあとから行くと言っていた。
こうして内密に四人で話し合うのは今日が初めてだったが、二人に対して考えてることは全員同じだろう。興味がないと言ったら嘘になるが大してあるわけでもない俺は正直、どちらかというと今すぐ寝たい気分だった。今日のメニューもやたらハードだったしな、まあ時期が時期だし仕方ないが。そんなことを考えながら、器用にポテトをつまみつつペラペラしゃべる原の聞き手に徹していた。


「俺が見る限り、さんも花宮のことすきそうに見えたんだよね。なーんか自覚なさそうだったけど」
「ああ、それは俺も思ったな。最近のことだが」
「マジかよ。じゃあもうくっつくじゃねえか」
「それがさあ、花宮にそんな感じのこと言ったら、あいつ信じねーの」


「はあ?」斜め前のザキが眉をひそめる。古橋は相変わらずの能面のまま少し顎を引いたようだった。目の前の原が花宮と話した内容を続けて説明すると、ザキはわけがわからないといった風に首を傾げた。


「なんでそこで疑うんだよ」
さんが花宮をすきなのは事実だろうにな」
「ね。そういや古橋はなんで気付いたわけ?」
「なんとなく。彼女が花宮を見ていたときの表情で」
「へえ…なんか古橋が言うと面白えな」


ザキの茶化しに古橋がほんの少し目を細めるが表情に変化はない。「つーかおまえとか瀬戸がそういう話に興味あるとは知らなかったわ」イスの背もたれに寄り掛かり、ストローに口を付けそう続けたザキに「ないことはないよ。おまえらみたいに下手に首突っ込もうとは思ってないだけで」と返す。「馬に蹴られちゃったもんねザキ」「あ?!」原の一言で茶番が始まり二人の応酬が一通り終わると「…はーあ」原はわざとらしく溜め息をつきながら、頭の後ろで手を組んで後ろにもたれた。


「でもわかんねーよなあさん。あんだけいじめられてよくすきになるよね」


若干まだキレ気味だったザキもその台詞で勢いを失い、確かに、と呟く。渦中の彼女は幼なじみの作為を歪んだ愛情だとは気付かず一心に受けそのたび泣くほど嫌な目に遭ってるというのに、その元凶である花宮をすきになった。普通に考えたらなかなかあり得ることじゃないだろう。それがつまり、この事態を引き起こした主な要因だ。


「だからそこじゃん。花宮がさんを信じない理由」
「え、なに?…あー、恋に落ちるのに理由はいらないってヤツ?ウケんね」
「まあ面白いけど、事実そういうことだろ」


花宮がストレス発散に彼女を泣かせ、慰める。俺は二人の関係を聞いたときからこの展開に至る可能性を考えていたのだが、そこまで低いものだったろうか。確かに今までの彼女にそのような節は見受けられなかったけど、そうだとしても理屈抜きですきになるだろうとは容易に考えられた。そして反対に、理屈を必要とする花宮がそれをすんなり受け入れないだろうことも。「花宮はあんなことをしてすかれるわけないって思ってんだろ」うんそう、言ってた、原が頷く。


「なに瀬戸、全部お見通しなワケ?」
「まさか。でも花宮がさんを信じられない限りはくっつくことはないだろうな」


花宮の考えを完全に読むことは不可能だけど、わかることも確かにある。花宮は、どんなに甘美な慰めを与えたとしても彼女が自分に信頼以上の好意を持つことはないと考えている。そんな上辺だけの優しさより与える悪意の方がはるかに大きいと思っているからだ。ぬか喜びなんて花宮のプライドが許さないだろうから、周りがいくら盛り上がろうともあいつ自身がさんからの好意を確信できない以上、受け入れることはしないだろう。けれど。

それ面倒くさくないか、と聞いたことがある。陥れるために慰める、その過程についてだ。そのとき花宮は悪そうな笑みを浮かべて、ただ、楽しいよ、と言った。きっと誰にも渡さないだろう、ひどい独占欲だと思う。
「まあくっついてもくっつかなくても面白ければいいんだけどさ」寄り掛かりながら、原がおもむろに口を開く。


「もうすぐ予選じゃん。…ね、嫌な予感すんだけど、俺だけ?」
「奇遇だな、俺もだ」


原の台詞に古橋が同意する。花宮が自身の恋愛感情を認め、しかしこの状態のまま彼女が自覚したら起こる事態を推測してみた。…確かに面倒くさいことになりそうだな。思いながら、なったところで二人次第だと投げて重い溜め息を吐き出すのだった。