万屋からの帰り道で買ったお団子を頬張る。みたらし団子はわたしの大好物だ。現代にいた頃の洋菓子がときどき恋しくなるものの、基本的には和菓子でオールオッケー、大満足だ。もっちゃもっちゃと咀嚼しながら反対の手で温かいお茶を飲む。なんという幸せだろう。縁側から見る庭の風景ものどかでよい。歌仙くんがいたらきっと口を揃えて風流だと述べていたことだろう。彼はただいま遠征中である。
 後ろに控えていた長谷部を主命だと言って隣に腰掛けさせ、主命だと言ってみたらし団子を頬張らせる。加州くんは歌仙くんたちを率いる部隊長でここにはいないので、今日の近侍は長谷部にお願いした。主命であれば何でも聞く彼に、万屋までのお供と全員分のみたらし団子の荷物持ちを任されてもらった。少しくらい嫌な顔をしてもいいのに、彼は文句ひとつ言わず「かしこまりました」と承ってくれてしまう。それに甘んずるのがわたしだった。


「おいしいねー長谷部」
「ええ」
「長谷部は甘いものすき?」
「 、はい」


 あ、気を遣わせた。滑らかな返事じゃないからすぐわかる。もしかして嫌いだったかと一抹の不安がよぎり彼を見上げるも、思ったほど嫌そうな顔はしてなかったのでホッとする。いやあでも、長谷部は基本表情変えないからなあ。
 とか言うと他の付喪神たちに首を傾げられてしまうけれど。どうやらわたしにだけらしい。そういったことで、長谷部との距離を感じることがあった。


「どうかされましたか?」


 でもこういう、きょとんとする長谷部を見られるのも、わたしだけなんじゃないかと思うと気分は悪くない。
 とりあえず、長谷部は甘党ではない。脳にそれだけをインプットして、わたしは物言わぬ彼の口から得られる情報を余すことなく蓄える。きっと気を遣うなと言ったところでのれんに腕押し、ぬかに釘なんだろう。


「たとえば、他の刀と同じように接してみてって言ったらどうする?」
「……主に、ですか?」
「うん」
「それはできません」


 おお。思わず口を開けて目を見開く。長谷部の口からできませんが出てくるとは。


「主は主ですので」


 簡潔な返答だ。予想はできていた。
(また距離を感じて落ち込む?いやいや、これはこれで楽しいぞ)
 なんたって彼初めての拒絶だ。こんな平和な拒絶もなかなかない。にやにやしてしまうわたしを見る長谷部は怪訝な表情を隠せてない。困ってるんだろうなあと思いながら、弁明せずに前を向き三粒目の団子を頬張る。と、顔まわりの髪の毛を一本、口に含んでしまった。しまった、恥ずかしい、思いながら慌てて湯呑みを置く。
 つん、と頬に柔らかい感触。長谷部の指だ。直感したわたしはすぐにそちらを向こうとする。長谷部の人差し指が、髪の毛を引っ掛け、そのまま下へと流す。彼の意図に気付いたのと、彼を再び視界に入れたのはほとんど同時だった。思わず目をまん丸にしたまま彼を見上げてしまう。
 さらに驚いたことに、長谷部も同じような顔をしていたのだ。


「はへ、」


 べ、と最後まで言えなかった。口にお団子が入っているのを失念していたのだ。用をなさなかった手で口を押さえる。もぐもぐと急いで咀嚼しながら彼を見遣ると、まだぽかんと口を開けたまま、いっそ固まっているようだった。


「……」
「……」
「……も、申し訳ございません」


 謝ることではない、と思う。むしろわたしがお礼を言うべき立場だろう。ごくんと飲み込んだあとその通りに感謝の意を伝えると彼は何かを誤魔化すように、いえ、と目を下に逸らし、それから前に向き直った。わたしもなんだか直視は耐えられず、向き直って横目で彼を盗み見ることにした。自分の口に手を当て俯く長谷部をうかがうに、彼自身も今やったことを理解できていなさそうだった。無意識の行動だったのだろうか。長谷部にしては珍しいなあ、となんとなく思いながら、最後のお団子を味わう余裕もなかったわたしもそれなりに動揺しているんだろう。