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わたしの勘は見事当たった。大当たりだった。次の隠れ家(といっても普通の一軒家なんだけど)に着いたサソリは、もともと余計な荷物なんて持ってこなかったのもあって適当に片付けを済ませてちょっと出掛けたあと、すぐに部屋に籠もってしまった。そりゃーもう引きこもりさながらだ。わたしはサソリに見せつけるように口を尖らせてたけど彼は気付く素振りも見せなかった。ほんとの本気でわたしを忘れてる。いくらほっとかれても一緒にいるから大丈夫だと思ったけど、駄目だ、これ。

わたしたちは今日の朝、ええと、六時頃ここに着いた。それで七時に部屋の整理ほっといて買い出しに付き合って、八時にはもうサソリの姿はドアに遮られて見えなくなっていたから、かれこれもう四時間、サソリは籠もっていることになる。ポッポーと十二時を知らせる鳩時計が鳴った。わたしはそれを忌々しく見上げる。ぐつぐつと煮えるシチューの香りが鼻孔を掠めた。今日のメニューは具だくさんのシチューなのだ。おたまで掻き混ぜていると、消す気のない気配に気付いた。


「あー駄目だ。腹減った」
「もう終わり?」


階段から降りてきたサソリは跳ねた髪の毛を梳きながらそう言う。わたしが少しつまらなさそうに問い掛けると、瞬きを数回したあとわずかに口角を吊り上げた。


「まさか。傀儡はたくさんあるんだぜ、そんな早くメンテナンスは終わんねえよ」
「…あっそ」
「なに?、寂しいとか」
「ばっか、違うに決まってんじゃん」


ふうんと、失礼極まりないにやにやした笑みのままダイニングテーブルに座った。わたしは体温が上がったことを自覚しながらもそれを抑えようと口を一文字に結んだ。きっとサソリはわたしが寂しいことくらいわかってるんだろう。悔しいけど本当だからしょうがない。


「ごはんできたよ」


呼ぶとサソリは台所に来て、昼食の準備を手伝ってくれる。サラダを盛り分けるサソリを見てると、わたしはただの家政婦なんかじゃなかったんだと思えて寂しさなんて吹っ飛んで普通にかなり嬉しい。なんて現金な女なんだと自分で思う。


「ね、サソリ」
「ん?」
「わたし買い物行きたいんだけど」
「何のために」
「ごはんだよ。野菜とか、お米とか」


テーブルに料理を並べながら、サソリは難しい顔をした。見る人によっては睨んでると思うかもしれないけど、今のこの表情は決して睨んではいない。


「じゃあ食い終わってから行くか」
「あ、べつにサソリは行かなくていいよ。わたしだけで十分。お米はちょっと、つらいけど」
「馬鹿、言ったろ。おれの傍にいろって」
「……」


わたしは下手に笑いながら下を向いた。…そんな恥ずかしいこと言われましたかわたし。ていうかじゃあ何度も言わないでください恥ずかしくて死にますから。居たたまれないわたしはシチューをくるくる掻き混ぜる。


「だ、大丈夫だよ」
「だから、ここは前んとこより危険なんだぞ」
「でもさ、サソリ、傀儡のメンテナンスしたいでしょ」
「んなもん帰ってからでも夜中でもできる。買い物はそうはいかねえだろ」


あ、よかった。もし「傀儡よりおまえの方が大切だ」とか言われちゃったら、わたしこの場を借りて昇天するとこだった。ふうと息を吐く。サソリがテーブルの近くからわたしに向かって首を傾げた。