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次に移動する場所はここよりも少しだけ砂の里に近いとこだと言う。それはつまり、砂の追い忍たちのテリトリーに踏み入れることでもあり、つまり遭遇する可能性がこことは段違いだってことだ。どうしてわざわざ砂に近いところに移動するのか、サソリは明確に言ってはくれなかった。ただ、そっちの方がいざというときやりやすい、って、巻き物の整理をしながら言っていた。

いざというとき、それはつまり敵と遭遇したときだ。あ、そっか、砂の忍ならサソリは大方知ってるからどんな術使ってくるかわかるし、他里の忍より戦うとき手こずらないってわけか。なるほど、さすがサソリ。


「べつに他の忍だろうが何だろうが倒せるけど」


真夜中、大家さんに別れを告げたわたしたちは目的地へ歩きだした。わたしの三歩先を歩くサソリはわたしの考えにそう付け足した。真夜中だろうが何だろうが暗闇に映える赤い髪は相変わらずで、たとえサソリがそんな恐ろしいことを言ってもああやっぱりこいつはサソリだって思えてほっとする。ねえサソリ、おまえほんとに、つい二週間前は仲間だった人たちを殺せちゃうの。殺しちゃうの。わたしがとやかく言えることじゃない。なぜならわたしはいざというときサソリの何の役にも立たないからだ。一丁前に「殺さないで」なんて言える立場じゃない。殺さないでほしいけど。砂のためじゃなくて、おまえのために、だけど。


「知ってるよ。おまえ強いもんね、追い忍だって余裕のよっちゃんだよ」
「はっ、なんだそれ」


嘲笑でも冷笑でもなく、サソリが口元を綻ばせたのがわかった。こんな単純なことが嬉しいのだ、わたしは。サソリと一緒にいれてよかったと本当に思える。暗闇は深くなる一方で、夜が明けるのはまだ先だけど、次の場所に思いを馳せて今来た道を振り返っても、ほら何も怖くない。


「目的地までどれくらい?」
「夜が明ける頃には着く」
「ふうん」


返事をするとサソリは少しだけわたしに向いて、ふっと、ひどく優しく笑った。

わたしはサソリが任務している時の姿はあんまり見たことないけど、昔、任務が片付いてすぐに風影様のとこに来たサソリをたまたま一度だけ見たことがある。わたしはそのとき風影様に頼まれて書類の整理をしゃがんでしていたので、「失礼します」と入ってきたサソリを最初、見ることができなかった。机の陰から覗いてみる。今思えば見なきゃよかった。せっせと書類の整理をしていればよかったと思う。敵が強かったのか、怪我はなかったものの返り血がおぞましいくらいにたくさん、サソリに飛び散っていた。わたしはサソリのその姿を見たとき、錯乱するかと思った。わたしが知っていた、すかしてるサソリとは全然違くて、瞳孔が開いてて肩で息をしてて、どうしてサソリだけしかいないのか震えながら思った。サソリの小隊はフォーマンセルのはずだから、残りの三人は、どこだ。「他は今治療中です」サソリが淡々とそう言って、風影様はわたしに振り返った。早く君も行きなさい、そう三代目は言った。

立ち上がったわたしはそのとき、サソリと目が合ってしまった。彼の目が大きく見開かれる。数秒間凝視し合ったあと、わたしは目を逸らして、部屋を出ていった。わたしが中忍に昇格してからまだ一年も経っていない頃だった。当時わたしたちは、どちらも背伸びをしていた気がする。サソリは小隊長を任されたりわたしは医療班の中で必死だった。二人が顔を会わせるのも、あの頃は少なかったのだ。

今よりあの頃の方がわたしもサソリも間違いなく幼かったはずなのに、サソリが笑ったのを見ると、まるで今の方が若く感じる。あの頃はぜんぜん、笑わなかった。わたしは忍の世界についていくのに精一杯だったのだ。つまり今は慣れてしまったってことで、それは悲しいことなのか誇ることなのか、わからない。でも今の方が幸せだから、後者ってことでいいと思う。


「サソリ」
「ん?」
「向こう着いたらさ、まず何する?」


小走りで隣に並ぶとサソリはわたしに歩幅を合わせてくれて、そういうとこもいちいちすきだ。サソリは空を仰ぐ。


「さあな…あ、やっぱ傀儡造りてえ」


じゃあわたし、ほっとかれちゃうなあ。思ったけど口角は下がらなかった。