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きらきらきらきら、太陽の光が反射して、窓が、木々たちが、何もかもが、輝いて見える。わたしのちょっと前を歩いているサソリはやっぱり神経を張り巡らして、ああまだ追っ手の心配をしてるんだ、ってまるで他人事みたいに思った。いや心配とかじゃなくて、なんて言うのかな、わかんないけど。でもねサソリのことだから多分、追っ手が来たところであっという間に倒してしまうんだろうよ。だからそんな心配いらないのにね。


「ここ」


立ち止まったそこは工具屋で、なるほど傀儡の部品がたくさん売っていそうだと思った。隣に並んでちらりとサソリの横顔を盗み見るとかすか、かすかだけど顔をしかめていて、なんで?と馬鹿正直に思ってしまった。口に出してないのに、サソリはわたしの視線に気付いてちらりとこっちを見て、それから少しだけ、ゆっくり口をあけた。


「こんな平凡なとこに、傀儡の部品なんて洒落たもの、あるとは思えない」
「ああ、そっか」
「けど仕方ねえんだよ。もっと時間が経ったら、別んとこ移ろうな」


うん。頷く。「じゃあわたしは八百屋に行ってくるね」言って踵を返すと勢いよく腕を引っ張られて、またサソリに向くことになった。


「え、なに」
「おまえもついて来い」
「えー」


だっておまえ、傀儡のことになると思い切り没頭しちゃって、わたしの存在無視すんじゃん。わたしいる意味ないし、ていうか、そろそろ食材買いに行かないと冷蔵庫からっぽになっちゃうんだよ。口を尖らせるとサソリはそれには気付かないふりをしてさっさと店の中に入っていってしまった。仕方ないからわたしも入る。カランカラン、ベルが鳴る。中はこれでもかっていうほど静かで、レジのところに座っているおじいさん、は、大きなレンズの眼鏡をかけていて、店の雰囲気に似合って優しそうな人だった。白髪と皺の数が、かなりの老人だということを表している。サソリはといえばそんなおじいさんに目もくれずいろんな部品を手にとっては見て、置いて、また別のを…って、やっている。この時点ですでにわたしの存在は無いものとなっているのだろう。口を尖らせたまま辺りを見回すけれどわたしの興味を惹くものは何一つ、なかった。強いて言えば、溝のほこり。掃除したい衝動に駆られる。でもそれを我慢して、わたしはおじいさんに話しかけてみようと歩み寄った。「おい」サソリに呼ばれる。な、なに。


「あんまり関わろうとするな馬鹿」
「あ、え、なんで」
「行くぞ」


どうやらここには天才造形師のお気に召すものはなかったらしい。乱暴に腕を掴まれ引きずられるように入り口に向かう。振り返ると、おじいさんと目が合った。軽く頭を下げるとその人は、眼鏡の奥でやわらかく笑った。

カランカラン、ついさっきも聞いたベルが鳴って、店を出た途端サソリは立ち止まった。顔は見えないけど、多分、わたしに機嫌を損ねているんだと思う。忍者らしかぬ行動に、かな、よくわかんないけど。くるりとサソリが振り返る。「おまえ、隙だらけだぜ」ああそうですね、すいませんでした。おまえに比べたらわたしなんて、全然未熟だよ。


「自分が抜け忍だって自覚しろ」


頭をわしゃわしゃと掻き回される。サソリの声は真面目で、でも絶対に怒ってはいなかった。あのおじいさんの笑顔は和やかですきだったけど、サソリのだったらわたし、理屈抜きで大好きなのになあ、こいつはあんまり笑わないんだものね。