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朝食は一緒に食べるのに昼飯と夜飯はおれが居間に降りてくるとおれの分しか用意されてなくて、は椅子に座りながらも巻物を読んでいることしかしていなかった。


「もう食ったのか?」
「うん」


ふうん。最初は大して気にも止めてなかったが、一週間も過ぎるとだんだん不審に思うようになった。シチューを飲みながら、縫い物をしているの指が細いなと思いながら見ているとちょっとあれ?と異変に気付いた。


(…え?)


指が細くて手が子供みたいに小さいのは昔からだ、それは知ってる。問題は手じゃない。腕が細い。身を乗り出して右腕を掴んだ。びっくりしたがおれを見る。舌打ちした。はっきりわかるくらい、の目に力がなかった。掴んだ腕は以前より明らかに細かった。骨々している。…こいつやっぱり。


「昼飯と夜飯食ってねえのか」


言うとは目を見開いたあと眉を情けなくハの字にした途端泣き出した。こいつが泣いたのを、そういえばここ最近、年単位振りに見た記憶がなかった。ガキの頃、馬鹿みたいに泣いていたが思い出される。あの時も今も、原因がおれだということは変わっていない。の隣へ回り、ぼろぼろと泣くこいつの涙を拭う。おれはじりじりと内臓が焼かれる感覚に襲われた。


「…嫌だ、さそ、り、傀儡なんかにならないでよお」
、大丈夫だって。死ぬわけじゃないんだから」


ああ情けないのはおれだ。本当は薄々感付いていた。この家に常に張り巡らされていた緊張感に。おれが人傀儡にならないように、は常に神経を集中させて、いつもは何もしない夜、離れないようにおれの手を握っていたことを。そこまでわかっていてを死ぬほど疲れさせて飯も食えねえぐらいに神経擦り減らさせときながら、人傀儡になんかならないだなんて嘘も吐けない。「大丈夫」って、何が大丈夫なのか明言できない。情けない。


「そんなことしなくたって、おまえはもう十分強いんだから」
「強くない。悪かった、おまえが嫌がることはわかってた、よくわかってたんだ。でもおれは間違いなく弱い。死ぬほど弱い」


首を振ろうとしたを抱き締める。


「でもおまえに嘘は吐きたくねえんだ」


悪い。