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サソリは性格に似合わないでかっこいいからさぞかしもてるんだろうって、わたしは思っていた。それと同時に、ふわふわ、隣を歩くと揺れる赤い髪の毛と、いつも眠そうな眼、とか、そういうの、なんとなくすっごくすきだった。「サソリって、もてるでしょ」いつかの休みの日、何気なく聞いてみたら「あほ」って言いながら頭を小突かれた。「そんな暇ねえよ」うん、そうだね、そうだよね。小突かれた頭は少しだけ痛かったけど、わたしはすごく安心した。じゃあ、ふわふわの髪の毛とか、眠たそうな眼とか、ほら、サソリの全て、ってさあ、今のところわたしが独占しちゃっても誰も怒らないの。チヨバア様はわたしとサソリが仲いいの知ってるし、いいのかな。ねえ、知らないでしょ。わたしおまえのことすきなんだよ。言えないけどね。





言ったとおりサソリはまっくら、明るいのは月だけ、の、世界に一人だけいて、うん、わたしはそこに行くよ。怖くないしね。怖いのなんて、あんまりないさ。また抱きすくめられんのかと思ってたけど、サソリは昨日みたく弱っちくなくて、ああ、そうそう、わたしおまえのそこがすきなんだよ。見た目はひょろいくせに中身はこれでもかってくらい強靱な、おまえ、大好きなんだよ。空回りした心の準備はもうどうでもよくて、わたしはサソリとおんなじように、鉄の柵に寄りかかった。


「どうしたの」
「…ん、おれさ」


そこで一回言葉を切って、サソリは視線を泳がせた。わたしはサソリの横顔を眺めながら続きを待って、それからサソリはこちらを向いて、口を開く。


「おれ、里を抜けるから」


…え、なんで。ものすごく言ってやりたかったのに喉からはひゅーひゅーと擦れた息しか出なくて、ごくり、渇いた口内を飲みこんだ。「なんで」言えた。「あほじゃん」余計な悪態までオプションでついてくる。サソリはそれには一切動じず、ちらりと、わたしを見たあとふっと息を吐いた。


「やりたいことがあんだよ。砂の里じゃできない」
「やりたいことって、何。抜け忍にまでなってしたいことなんて、あんの」
「ある」


おまえにはわかんないだろうが、おれは造形師だ。強い傀儡を求めるってことは…なあ、おまえにはわかんねえんだよ。わかんないよ、わかる気がしない。心臓がやたらうるさく、息がうまくできない。わたしはサソリの前で、ちゃんといつもどおりのわたしでいられているのか、自信がない。

でもきっと、わたしはどこかで予感してたんだ。サソリが高みを目指して、望んで、そうだサソリは造形師として貪欲なのだ。だからきっと、里を抜けるのだ。そう思うと心臓は落ち着いてきて息もできる。同時に鼻の奥がつんとなったけどそれには気付かないふりをした。


「でも、チヨバアさまはどうすんの」
「は?知らねえよ。つかババアの心配するキャラじゃねえし、おれ」


と言ったもののサソリの目はわずかに翳っていて、たぶん、サソリの表情は変化が少ないって思ってる里のみんなにはわからないだろうってくらいの翳りだった。でもわたしはわかる。サソリは自分で言うほど、周りが思ってるほど、非情な人間じゃない。だってわたしは知っている。両親の帰りを待つサソリ、死んだと知ってそれでも強く生きて、ねえ、チヨバアさまのことだって嫌いじゃ、ないでしょう?知ってるよ。


「なあ、 おまえも来る?」


じっと目を見つめられ、逸らせなかった。「来たけりゃ、だが」唇だけ笑って、目は、依然真面目で、わたしは吸い込まれるようにして、頷いていた。ほとんど無意識、でも間違ってない。


「行く」


目を閉じてみる。走馬灯のようにいろんな、いろんな人が思い浮かんできたけど、それでも、さっきの返事に後悔はなかった。ふっと、頭の上で笑い声がした。顔をあげる前に抱き締められる。うん、こういうのが抱き締められるっていうんだね、サソリ。


「ねえサソリ わたし死ぬまでおまえと一緒にいたいんだよ」


それはもう、愛の告白みたいで、わたしはサソリの背中に手を回した。