19


またもやインスピが湧かないらしく、居間のソファで俯せに寝転がっているサソリのためにお茶を入れている最中だった。


「…雨」
「あめ?」


確かに今日は起きたときから雨が降っている。打ち付ける雨音がばしばしと家の中にも響いてきていた。だけどそれがサソリに何の影響を与えているのか見当もつかず、わたしはお茶をお盆に乗せてサソリのところまで運んだ。サソリは気配に気付いてか起き上がって、「悪い」と言ってお茶を受け取った。どこか顔色が悪い。


「どうしたの、具合悪い?」
「いや。…雨だと外がわかんねえから」
「え?」
「鼻が効かねえ」
「は、ああ」
「追い忍が近づいて、身を潜めてても全然わかんねえんだよ。もし今このとき、そういう状況に陥っていても、おれは気付けない」


サソリはここまで来ると妄想癖と呼ばれる類の何かなんじゃないかと思ってしまうよ。これはわたしを楽観主義者と呼ぶのと同じことなんだろうか。ソファに座らず絨毯の上に体育座りをするとサソリが視界の隅で窓に目を向けているのがわかった。わたしも少しそちらに目を向けると、やっぱり外は雨で、ぼやけたガラスのお陰で視界は歪んで見えた。


「なあ」
「ん?」
「おれ、暗殺もやったことあんだけどな」
「…ん」
「…おれは、ほとんど雨の日にやった」
「…賢いね」


雨は足音も気配も匂いも全部掻き消してくれる。強ければ強いほど、それは加害者に味方してくれる。サソリはそれをよくわかってる。こんな十五歳がいるなんて、砂は恐ろしい里だったんだなあ。


「雨の日は絶対に家から出るなよ」


呟いた声に頷いた。声は掠れて出てこなかった。





情けない、と思った。こんな風にを縛りつけないと守れないなんて情けない。人数不足で、追い忍の仕事を受け持ったことはある。しつこく何人もで追いかけるのなんてそう長くはしない。足取りが完全に掴めなくなったら、もうほとんどそこでやめる。あとは一人一人で動いていた。そんな感じのスタンスだった。だからもう少しの間だ。むしろこの雨、こっちの足取りが完璧に掴まってたらやばいけど、掴まってなかったら好都合なんだ。おれらの足跡も匂いも消える。こんな大雨は抜けてから一度もない。これが過ぎればきっと、大丈夫なはず、だ。自信はない、けど。

早く強くなって早く追い忍とか全部ぶっ殺して早くから不安を全部取り除いてやりたい。そのためには、


(だめだ、まだ弱い)


成功率は99にもなってねえが。この雨が上がったら、計画を実行する。