17


「あれかな、サソリのがうつったかな」
「アホ抜かせ」


おれのは頭痛だっつーの、と言うサソリの口悪は病人に対しても衰えることはなかった。いや、自惚れかもしれないけど、サソリはわたしに対してはそれなりに優しい。チヨバアさまに対する反抗期の裏側に見せる優しさとはよく似ていてそれでいて全く別の類のそれはわたしが見るかぎり他の誰にも向けられたことが無い。自惚れてるかなあ。でもとりあえず、サソリは口悪だけど優しい。わたしだけに、は。


「昼飯食うか?お粥ぐらい作るけど」
「ありが、げほげほ、食べた、っいっです、」
「あーわかったもうしゃべんな」


そう呆れたように言って、寝室から去る間際、わたしの頭を一度だけ撫でていくサソリはとても優しい。幸せなほど。





梅がちりばめられた綺麗なお粥はわたしの胃袋に綺麗に収まった。お粥の入った鍋を片手に薬を差し出され、おとなしく受け取る。そしてピピピと鳴った体温計を取り出してそのデジタル文字を読む。


「三十七度二分」
「朝よりは下がったな」
「うん、げほげほ」
「とりあえずそれ飲んで、寝ろ」
「いえっさー」


ごくりと錠剤と水を飲む。ぼんやりとだるくて火照った体、冷たい水と錠剤のささやかな感触が喉を通る。だ、るい。脱力、ばたんと布団に倒れる。さそり、名前を呼ぶ、瞬間、


「お大事に」


サソリは部屋を出て行った。悲しいなあと思いながらも睡魔には勝てず、結局わたしはサソリの名前を呼ぶことも手を伸ばして触れることもしないで眠りについた。傍にいてほしい、なんてわがままを聞いてほしかったけど、やっぱり病にかかると人恋しくなるもんだなあ、と思っただけで我慢した。近くにサソリがいてくれてよかった。