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表情には出さなかったものの、おれは大分にやけそうになっていた。結局に買い出しを任せ、(これはこれで物凄く心配だった。死ぬ程)脱力したようにソファに座る。そこでやっとにやける。にやける口を覆った。

三代目風影。

砂鉄をどうにかして戦い、風影の中で歴代最強と謳われているあの男。任務の命令を受けたり報告をしに行くときくらいしか顔を見ないから深く考えたことが無かった。盲点だ。

おれは強くなるために里を抜けた。強くなるために、傀儡使いのおれには出来のいい人傀儡を揃える必要があった。奴を人傀儡にし手中に収めればさぞかしいい手駒になることはまず間違いない。おれのコレクションに箔が付くってもんだ。三代目を思い出してみる。おぼろげな残像だが、優しげな目の奥に、常に秘めた闘志があった。あれは何人もの人を殺してきた目だ。強い。あのとき確かにおれの第六感がそう感じ取った。

あの日は最悪だった。任務の内容は大して覚えていないが、隊員がおれ以外重傷を負った。隊員が弱かったわけではなく、ただ相手が強かっただけで、しかしおれより弱かった話だ。けどその惨状はどうにもグロテスクで、おれは目眩がした。傀儡を駆使して隊員を医療班に預けに行くと知り合いに何度も怪我はないかと尋ねられた。首を振る。「瞳孔が開いてるぞ」そんなことくらい自分がよくわかっていた。荒い呼吸が止まらない。相手の臓物が飛び散り、手足が千切れる様が眼球に張りついているように目の前に映る。情けねえ話だが、今にもぶっ倒れそうだった。それでもふらふらと風影の部屋へ向かい、任務の報告をした。


「任務、遂行しました。巻物はもう解読班に渡してあります」
「そうか。ご苦労だったね」
「…他は今治療中です」
「うん、そうかい」


そのときの奴の目、あれは表現しがたい強さがあった。揺れなかった。ぱりぱりと固まった血が床に落ちていったけどおれは気にも留めなかった。しばらく呼吸を忘れた感じがした。そのあといきなり現われたと目が合ったのにも驚いたのも覚えている。そうか確かにあいつはよく三代目の近くにいたな。………。

イラッ

…ああちくしょう、早く殺してしまいたい。でもまだ駄目だということはわかってる。三代目暗殺にはまだまだ不安因子が残っているのだ。おれが里を抜けてまだ日が浅いってのもある、が。


「ただいまー!サソリ死んでない?」


が軽快にドアを開ける。帰ってきたようだ。不安因子…一番のそれはだ。こいつにばれずに三代目を暗殺し、人傀儡にするのは大分難しいことだろう。


(さて、どうしたもんかな…)


おれの困った顔を勘違いしたらしいが焦って額に手を乗せてきた。近い。ばかやろうが!