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サソリが朝から「頭痛が痛い」などとお馬鹿発言をしたのでわたしはオーバーリアクションで畳んだバスタオルを落としてみせた。しかしそれに目も暮れずサソリはこめかみ辺りをゴツンゴツン手で叩いている。自分が間違った言葉の使い方をしていることに気付いていない。「さ、サソリさんサソリさん」声をかけると眉間に皺を寄せた彼が振り向いた。


、バファリンねえ?」
「あの、頭痛が痛いって…」
「は?…、…」


ようやく気付いたらしくさっきより顔をしかめてバツの悪そうな顔をした。わたしはさりげなくバスタオルを拾いながら、にまにまと表情筋を緩ませた。それを見たサソリがさらに顔をしかめる。


「…いいから、バファリン。ねえの?」
「えーないよ。そっか薬か。盲点だった」


自分が医療忍者だからってわけでもないけど、包帯や消毒液は大量にあるのに錠剤はまったく無かった。そういえば商店街の一番奥に薬局があったはずだ。買いに行こう。くるりと踵を返して居間を出ようとすると「おいっ」サソリがソファから身を乗り出してわたしの手を掴んだ。いきなりのことでわたしはまたもやバスタオルを落としてしまった。


「なに」
「一人で買いに行く気じゃねえだろうな」
「は?…、…」


しまった。一人で出歩くの禁止令出てたんだ。わたしは口角を引きつらせる。サソリがわざとらしくため息を吐く。


「おれにまた説教されてえのか」
「とんでもない」
「おまえってふらふらどっか行く癖あるもんなあ」


そうなのだ。思い立ったらすぐ行動、なんていう積極的な子ではないけど、深く考えないで行動に移す癖がある。今だってそうだ。サソリに言われたことなんかすっかり忘れてわたしは薬局に出掛けようとしていた。わたしはサソリに向き直り、姿勢を正した。


「すいませんでした。ただ今から薬局に行って参ります」


びしっと敬礼をして踵を返すと今度はチャクラ糸でものすごく引っ張られてソファに座らされた。座らされたっていうより、勢いがありすぎて元から座っていたサソリにぶつかってしまった。「ご、ごめん」でもわたし悪くなくないか?離れようとしたら首に左手を回された。思考回路が停止する。


「…頭痛え」
「だ、からわたしが速やかに買ってこようと…」
「……」
「(…あー)」


わたしを心配してくれてるは痛いほど伝わってくる。けどね、うん、そうはいかないんだよ。黙ったサソリにわたしはふとした疑問をぶつけてみる。


「わたしがさあ、もし四十度の熱が出てもおまえは風邪薬を買いにわたしを連れ回す?」


そういうことだ。


「…
「わたしこれでも中忍だし、倒せなくたって逃げ切ることくらいならできるし、ね、ああ、そういえばね、風影様がね、君ももうすぐで上忍だねって飴くれて、頭撫でてくれたことがあったんだよ」


それがつまりわたしが偉い方からも認めてられてるってことなんだとサソリに納得してほしかっただけなんだけども、どうやら捻くれ者で名高い(?)彼はわたしに回した腕をぴくっと震わせ、「は?は?」といかにも不機嫌極まりないといった声でわたしを責めた。そんな悪意のこもった疑問符を飛ばされても…。答えを求めているはずなのにわたしが有りのままを話したら殺される勢いだ。


「な、なに」
「は?おまえと風影、そんなに仲良かったわけ?聞いてないんですけど」
「だって言ってないし。チヨバア様には嬉々と話したよ。わたし風影様の部屋に書類取りに行きまくってたからさ、仲良くなってた」
「…これだから」


無自覚馬鹿は嫌なんだ。そう言ってさらに腕に力が入ったのでわたしはさらにサソリと密着する形となってしまった。誰が無自覚馬鹿だ!わたしは言い返す態勢に出た。


「サソ…」
「なんで誘ったのかって答え、な。おれ、誰よりおまえと離れたくなかったんだと思う。だから連れていきたかった」


…う、そんな嬉しいこと言ってくれるならわたしどこまでも連れてかれたげるし!ばーか!悩殺天然ホスト!


「(ていうか早く薬買いに行きたい…)」
「(…ちくしょうあの野郎…ん?風影?)」


サソリの異変にわたしはまるで気付かなかった。気付いていたらもう少し何かが変わっていたかもしれないのに。