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今日はどんより曇り空だった。太陽が見えない。空気も湿っていて生ぬるい。でもわたしはこんな天気がすきだった。雨は普通に嫌いで、晴れや雪はすきだけど、でも一番はくもりだ。居心地が半端なくいい。朝食を作りながら、サソリが椅子に座って窓をぼーっと眺めているのが見えた。あれ、何か考え事かな。わたし声かけていいものなのかな。そういえば今日、サソリが起きる前に歯抜けたんだよ、言いたかったけど言える雰囲気じゃないなあ。どうしよう。思ったらサソリが立ち上がって台所に来た。「手伝う」「あ、ありがとう」いつの間にかサソリは食事の手伝いをしてくれるようになっていた。まあそれはサソリが暇なときだけど。でも嬉しい。

サソリが味噌汁をよそっているからわたしはご飯を盛る。ちらりと振り返るとサソリの背中は心なしか疲れている様で、前の隠れ家にいたときと同じ感じがした。今度は何なんだろう。ぴたりとサソリの手が止まった。「なあ」


「おまえさ、後悔とか、してねえ?」


危うく茶碗を落としかけた。持ったまま、完全にサソリに向き直る。何それ。何それ何それ何それ。後悔?何に対してのだよ。サソリがわたしに振り返る。綺麗な瞳がこれでもかってほど翳っていた。それだからわたしは言葉に詰まって、もう、強く言えなくなる。


「な、何それ」
「おれと里抜けて、後悔してるか」
「してない」


唾を飲み込む。少し落ち着いた。ちゃんと言える。


「してないよ馬鹿。これっぽっちも、1ミクロンもしてない。なに、わたしが断り切れなくて抜けたと思ってんの、そんなのやめて」
「……」
「わかるでしょ、わかってよ、わたしそんな弱くないよ、頼りないけど、サソリの足手纏いになんかなってやらないよ。ねえ、変なこと聞かないで」
「…悪い」


なんでおまえそんな泣きそうなの。「もしさ」味噌汁を再びよそいながら呟く。もうさっきみたいな弱さは微塵もなくなって、サソリの声は少しだけ明るくなった気がした。ほっとしたのもつかの間。


「おれがおれのやりたいことに失敗したときは、骨拾っといてくれよな」
「   は、」


わたしは呆然とした。それ、つまり死ぬってこと?おまえそんな危険な賭けをしようとしてんの、言おうとしたけどサソリがわたしの前を通り抜けて味噌汁をテーブルに運んで行ってしまったから言えなかった。
わたしは死ぬまでサソリと一緒にいるつもりだし、その覚悟だってできている。でももしサソリがわたしから離れて行ってしまったら、もう会えない場所に行ってしまったら、わたしはどうしよう。骨を拾う?できるわけがない。やめてサソリ、そんな危ないことしないで。


「ね、え、サソリ」
「なに」
「なんで里抜けるとき、わたしを誘ったの」


骨を拾わせるためだなんてそんなわけないよね、違うよね。死ぬ前提でわたしを誘ったなんて。「」サソリもよっぽど驚いていたけど、わたしはサソリの顔を見れない。