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「懐かしむのが歯とか、馬鹿っぽい」


深い意味はなかった。何となくあいつの楽しそうな、幸せそうな顔を見てたら無意識に口がそう言っていただけだ。それから、すぐにの目が動揺したのに気付いた。何を思ったのか大体見当がつくくせにあいつに何にもしてやれないおれは本当に情けない。巻き込んだのは間違いなくおれだ。おれはもう、今更あの里に未練も何もないが、は違う。あいつはあいつなりに中忍を必死にやってきたし、馴染んでもいた。あっさり切り捨てられるはずもないだろう、に。なのに。

は朝になるとすっかり回復して、けろりとしていた。「歯がますます揺れてきた」なんて言って笑いもした。あっさり切り捨てられるはずもないだろうに、それなのに笑って前を見据えるはきっと、おれなんかより数倍強靱だ。ぎこちない笑みしか向けられないおれは、どう考えても弱い。


「今日、傀儡造りに専念するから」
「うん、わかった。お昼になったら居間に来てね」


それだけ言ってそそくさと部屋を出ていく。振り返らずにおれはヒルコの腕をはずした。里を抜けてまでやりたいこと、それをまだあいつに教えるわけにはいかない。そんなに急ぐものでもないし準備もいる。だからまだ。………。ぎり、と奥歯を鳴らした。急ぐものじゃない、準備が必要、こんなもの言い訳だ。ただおれは恐れているだけだ。おれの考えを聞いたがどんな反応をするか、それが怖い。

無意識のうちに腕を落とす。中指の間接が折れた。ハッとなる。何をおれは、甘ったれたことを。びくびくしてる立場の人間じゃねえんだ。何のために里を抜けた。強くなるためだろ、おい、おれ。しっかりしろよ。


(何のためにを連れてきた)


しっかりしろ。