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夜っていうのはまっくら、それは当たり前か、とにかく、太陽とさよなら月とこんにちわ、したのが夜だ。こんにちわ、月。周りに誰もいないから、だからなんとなくそれに向かってお辞儀をしてみた。フクロウがどこかで鳴いている。泣いている。

いつもどおりわたしは医療忍者なので里の仲間たちを手当てして、手当てしかしなくて、わたしは戦わない。任務だってAランクはめったにないしBランクだって怪しい。最近じゃ身体が鈍っちゃってきっと今Bランク任務一人でやったら失敗するんじゃないかな、かなりの確率、早さで。瞬殺だ瞬殺。ふっと息を吐いて、それから手に持っている薬袋を握り締めた。家に帰る寄り道で、風邪を引いた男の子に薬をあげに行った、帰り。もう空の袋はそこらへんのごみ箱に、捨てる。わたしはポイ捨てはしないタイプだ。

帰り道はまっくらで、わたしの家がちょっとばかり遠い外れのとこにあるのが悪いんだけど、だからといって反省なんかしないし怖いとも思って、ない、から、どうでもいい。公園に、あ、公園っていうのはわたしの帰り道にある小さな寂れた公園で、近ごろじゃ子供一人遊んでるのを見かけない、のはわたしが夜しか見てないだけかもしれない。でもその公園に、夜なのに、人が一人いて、鉄の柵に寄りかかって、何を見てるのかと思って覗いてみるとそいつはわたしに視線を移して、移しただけ。いつもどおり。


「夜は物騒だよサソリ」
「それはこっちのセリフだ」


もちろんわたしは夜に公園に一人で突っ立ってる人を見て誰彼構わず気軽に話しかけたりなんかしない。話しかけたのはそいつが夜のくせに、夜だから映える赤い髪だったわけで、赤い髪の人間なんてわたしは一人しか知らないから、あ、昔、もう一人いたけど、それはもう、あんまり口にしちゃいけない、特にサソリの前じゃ言っちゃいけない人だから、わたしの赤い髪の人は、サソリだけってことにしてる。そのサソリはわたしを見ているようでもっと遠くを見ている、から、わたしはなんだか寂しかった。


「どうしたの」
「いや」


わたしと同い年でわたしより先にアカデミー卒業した上にすぐさま中忍に昇格しやがった、ませた十五歳、途中まで身長、わたしが勝ってたのに知らない間に追い越されてた。でもまだ誤差の範囲内、って言ってかれこれ半年くらいかな。サソリとは家が近いから仲良くやってた、から、こんな風に夜、二人だけで話すのだってそんなに珍しくない。二人がどっちも暇だったらの話だけど。サソリはこの歳でSランクとかAランクとかをバリバリこなしやがるむかつくやつで、そりゃ、強いからしかたないけど、むかつく。ヒルコに入って戦うからその白い肌から鮮血が流れることもない、からわたしがこいつの世話をすることはない。まったくってわけじゃないけど、全然ない。


「なんつうか、急にの顔、見たくなった」


それは恋人に言う台詞だよ、喉まで来たのに声としては出なかった。なんで、とも聞けなかった。夜のくせに月は明るくて、ああ、夜に月が明るいのは当たり前か、じゃあ、もうなんでもいいけど、月明かりがサソリを照らして、いつもの数倍サソリを綺麗に見せた。ちくしょうくやしいな、おまえ、ずるいよ。目が合ってる、あってない。


「なんか安心した」


そう言ってサソリはわたしを抱きすくめた。抱き締めたんじゃなくて抱きすくめたのはあんまりにもサソリの腕に力が入っていなかったからと、わたしがやけに客観的だったからだ。こんな夜中、十五歳の若い男女が二人っきり、こんなところでこんなことをしてたら、やばいんじゃないのかな、見つかったら、噂されちゃうんじゃないのかなあ、いいけど。サソリ、ねえおまえ、どうしちゃったの、おまえらしくない。


「あったけえな」
「ねえ、どうしたの、サソリ」


うん、頷いたサソリはぎゅうっとわたしに回した腕に力を込め、て、切なそうなのはわかる。どうしたの、悲しそうだ、サソリが泣きそうだ。ぐるぐるぐるぐる、なんでかわたしが悲しくなった。「」名前を呼ばれる。


「今日は、やめる」
「何を?」
「明日、おまえ、ひま?」
「ううん、今日とおんなじだよ」
「それはよかった。また来るから」


頭をくしゃくしゃと撫でてサソリはわたしのすぐ、横を通り抜けた。ふわりと風が吹く。振り返ったらサソリの後ろ姿。赤い髪はやっぱりサソリだけのもので、なんでか心臓がきゅうっと締めつけられた。