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「結局俺と桃っちと紫原っちと、赤司っちのとこなんスね」何のことだかは彼が見ている用紙からすぐにわかる。先日、全国でインターハイの予選が全て終了し、本戦の出場校が決定した。昨日発表されたばかりのトーナメント表を見る彼は何とも言い難い表情をしていて、その気持ちはわからないこともなかったのでわたしも肩を竦めた。今日は普通の休日だったけど彼は午前練の部活後モデルの仕事で東京まで来ていたらしく、わたしたちは駅前の喫茶店で向かい合って座っていた。突然のお誘いを三秒で蹴った大ちゃんの代わりに派遣されたのがわたしでいいのか不安だったけれど、彼との会話は弾むばかりなので来てよかったと思う。


「桃っちと当たるのは準々決勝っスね」
「ね。楽しみ」
「…負けないっスよ」
「こちらこそ」


お互いの戦意を確認したあと、またトーナメント表に目を落としたきーちゃんは「紫原っちと赤司っちとは決勝まで当たらないんスね。…まあシードだし当たり前か」と零した。それに何か相槌を打とうとする前に彼の表情がころっと変わったと思ったら「赤司っちと言えば」と話も変わったので、わたしは開いた口を閉じた。


「赤司っちと、今どうしてるんスかね」
「…あ、きーちゃんも気になってるんだ」
「そりゃあそうっスよ。なんだかんだで俺、ほら、と仲良かったし。気に掛けてたんスよ」
「そっか、二年のとき同じクラスだったよね。まあ…わたしも今となっては全然わからないんだけど」
「そっスよねえ。連絡…するにも余計な茶々入れてると思われそうだし」
「だね」


ちゃんは思わなくても、きっと赤司くんには思われるだろう。それにきーちゃん自身は純粋に二人を気に掛けてるつもりなんだろうけど、どうなってるんだろうなあ気になる、ともがく彼は確かに茶々入れしたがってるように見えてしまうので苦笑いするしかない。


「…まあ、なんだかんだ言って、赤司っちはを手離せないっスよね」
ちゃんも自分から離れたいとは思ってないよね」
「そうなんスよねえ……なんていうか、うーん…」


腕を組み考え込んでしまったきーちゃんを見て、きっと、わたしたちは同じようにあの二人のことを考えているんだろうと思った。そして奇妙な幼なじみの関係を表す正しい言葉を探して、二人して結論に至っていない。……でも。「ねえきーちゃん、わたしたち多分、二人に対して一度は同じ考えを持ったと思うの」わたしの言葉にきーちゃんが顔を上げる。離れて二人が見えなくなってから考え、ずっと消せないでいた可能性は今や一番有力なものとして残っていた。きっと同じものを見てきたのだから、きーちゃんも考えたことはあると思う。


「すごくシンプルなことだと思うんだよ。ただお互いがお互いを大好きで、すっごく大切に思ってるっていう、ただそれだけなんだよ、きっと」
「それは俺も考えてるっスよ。でもそれにしては不自然っていうか、俺的に納得いかないことがあるんスよ」


間髪入れずに返答をした彼にやっぱり、と思う。そして、その納得がいかない気持ちもとても良くわかった。


「どうしてあの二人はすぐに結ばれないであんな妙な距離を保ってるのかって。変じゃないスか?」
「うん…、ね」


もしわたしたちの考えが正しかったら、とっくのとうに結ばれていてもおかしくない。にもかかわらず中学三年間、依然として二人に成就の様子は見られなかったのだ。あんなにお互いを特別だと思っているのが明らかなのに、ちゃんはともかく赤司くんが何も行動に移さないのはどうしてか。それがわからなくて、自信が持てずにいた。


「俺、中三の推薦が決まった頃、赤司っちに聞いたことあるんスよ。すきなのかって。したら赤司っち、答えるにはまだ早いと思わないかって。…早いんスかね」


そんな濁すような返答をしたのだとしたら赤司くんには何か理由があるのかもしれない。知りたいけれどやっぱり茶々入れしているように思われそうで、きっともどかしいまま、見えない二人を案じることしかできないんだろう。「まー、とかなんとか言って、今頃あっさり上手く行ってるかもっスよね」そうオチをつけたきーちゃんに苦笑いしながら、そうだったらいいねと返事をした。


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