お昼休憩が終わり、再度スタジアムの競技場へ集まったわたしたち。クラスごとになんとなく固まっているので勝己くんの姿を見止めるには人と人の間をかいくぐらないといけなかった。これから本戦が始まるというのに勝己くんに緊張の気配は見受けられない。ご飯を食べ終わってスタジアムで別れる直前と変わらない彼の胆力に改めて感嘆する。すごいなあ、わたしなんて、このあとのレクリエーションにすら浮き足立ってるっていうのに。
プレゼントマイク曰く、勝ち進んだ十二人で一対一の本戦を行う前に、予選落ちした人向けのレクリエーションがあるのだ。雄英の体育祭は毎年のようにテレビで見ていたけれど、本戦の内容の濃さに比べてレクリエーションの印象は限りなく薄い。それでも大勢の観客を前に何かをするというプレッシャーまでもが薄くなるわけがなく、わたしは目の前のモニターに映されている本戦のトーナメント表を眺めることで気を紛らわせていた。
組み合わせを決めるにあたり二人辞退者が出たようだけど、結局他のチームから繰り上がったのでトーナメントの山に変更はなかった。偶数なのでシードはなく、全員が全員、四回勝たないと一位にはなれない。くじ引きの結果、勝己くんは山の一番右側になった。
勝己くんの最初の相手の名前を目でなぞり、首を傾げる。麗日……れいび、れいか?何て読むんだろう。勝己くんの方を見ても誰かとしゃべってる様子はなく、対戦相手の見当もつかなかった。
そうだ、心操くん。もう一度モニターを見て彼の名前の位置を確認する。勝己くんとはほぼ正反対の、左から二番目にあった。


「本戦、俺と爆豪が当たったら、どっち応援する?」


…心操くんと勝己くんが当たったら、わたしは勝己くんを応援するよ。それを本人に言うことはできなかった。心操くんはわたしに問いかけたあと、答えを待つでもなく「やっぱ何でもない」と目を逸らした。明らかに気まずそうで、わたしも答えづらかったのでうやむやにしたまま、勝己くんの元へ駆けていったのだった。
あれから心操くんとはしゃべってない。密かに探すと、彼は出久くんに声をかけていた。
そう、心操くんの対戦相手は出久くんだったのだ。そもそも出久くんも騎馬戦を勝ち抜けていたこと自体驚きだ。一度六位まで落ちたはずの彼もまた逆転したらしく、四位に入っていたのだ。未だに出久くんの個性を見ていないのでここまで残ってることが信じられない。騎手をやってたのは覚えてるけど、勝己くんが前に言ってたような増強型の個性を使ってる様子はなかった。とはいえ、彼のことを目で追ったのはほんの数秒だったけれど。


あっちだって。行こ」
「あっうん…」


女の子に肩を叩かれ一緒に移動する。これからレクリエーションが始まるのだ。外から運ばれてきた大玉やテーブルを遠目に、ごくんと固唾を呑む。本戦出場選手は自由参加なので、勝己くんは参加しないらしく真っ先にスタジアムの外へ出て行っていた。C組は心操くん以外予選落ちしてるので全員残っている。


「何やるんだろうね…」
「見るからに大玉転がしっしょ。あ、障害物競走の可能性もあるか」
「ま、また?」
「さあー」


女の子と話しながら待機列に並ぶ。ミッドナイトから発表されたのは予想通りの大玉転がしと、借り物競走だった。
ルールを説明される中、前方を見ると心操くんがいるのに気が付いた。隣にいた彼女も彼を見つけたらしく、おーいと呼んだ。振り返り、こちらに近づく。


「心操もレクやんの?」
「やらない。見てるだけ」
「なんだ冷やかしかよ」
「上あがんの面倒なんだよ」
「C組の控え室は?空いてんでしょ」
「まあ…」


言いながら、パチッとわたしと目が合う。とっさに逸らしてしまう。さっきのことが気まずかったからだ。すぐに、感じ悪かったかなと思いおそるおそる上目でうかがうと、心操くんも斜め下を向いていた。…あ、嫌な気持ちにさせてしまった、かも。


「まいーや、心操、借り物対策で何かいっぱい持っててよ」
「何をだよ。校舎戻らねえとじゃん」


二人が変わらず軽口を叩き合うのに合わせて下手くそな笑みを作る。どうしよう、心操くんと気まずいままなの、なんとかしなきゃ。あとで謝らなきゃ。





二人一組で競う大玉転がしから始まったレクリエーションはそれなりの盛り上がりを見せていた。予選同様個性の使用は自由で、大勢の生徒のそれは見応えあるらしく観客も一レースごとに拍手を湧かせていた。手汗握る騎馬戦と違い種目も相まって楽しさや面白さが勝るらしく、ところどころでは笑いも起こっているようだった。
わたしはといえば大玉転がしを無難に終え、次の借り物競走の順番が回ってきていた。友達の女の子と同じ組で、他に二人知らない人がいる。前の人のレースを見てると、どう考えても無茶なお題が散見されていた。猫とか鳥とか無理がある。最悪リタイアも視野に入れよう…と相変わらず後ろ向きな姿勢でレーンに立つ。個人競技になると途端に緊張で浮き足立ってしまうのもいけない。


「位置について、よーい…」


スタートの空砲と共に走り出した。直線のコースを進むとレーンを横断するように置かれたテーブルに辿り着く。そこに伏せられたボードの裏側にお題が書いてあるのだ。わたしは一番遅かったので残った一枚を選ぶ他なかった。ひっくり返し、小さな声で読む。


「友達」


一瞬、ドッと心臓が高鳴る。頭が真っ白になる。しばらく固まっていたかもしれない。
友達。勝己くん。は、いない。

ハッと顔を上げ振り向く。コースに囲まれた競技場の中央にはレクに参加している生徒が全員いた。その中の一人と、目が合う。


「…心操くん!」


声は届いただろうか。


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