わたしたちがスタンドの観戦席へ移動し終わる頃にはチーム決めも大方終わっていた。よく見えるようにクラスに割り当てられた一番前の席に座るなり勝己くんを探すと、赤い髪の男の子とピンク色の肌の女の子と黒髪の男の子と話しているのが見えた。きっと彼らと組むのだろう。A組の人たちだろうか、見かけたことがあるような気がする。勝己くんのことだから騎手やるんだろうなあ、楽しみだなあ。


「………」


見つめたまま、喉がつかえる。あの女の子は勝己くんと仲がいいのかな。勝己くんと同じチームなんて、いいなあ……。一人前に嫉妬してて何様だろう。予選通過できなくても満足してたくせに、おまえにそんな資格ないんだよ、ばか。


「心操騎手やんだ。さすが」


隣の席に座った女の子に一度振り向いて、それからまた競技場を見下ろす。チーム決めの十五分間が終わり、騎馬ごとに一旦白い枠線で区切られたフィールドの外に移動していた。心操くんを探すと、男の子三人の騎馬にまたがるところだった。ほんとだ、心操くんも。ちょっと意外だ、他の人たちのことは知らないけど、ヒーロー科の観客席に一人も戻ってきてないのを見るに上位四十二人のうち四十人はヒーロー科で間違いないはずだ。その彼らを差し置いて、ハチマキの取り合いをするにあたって要である騎手に選ばれるなんて、とんでもない説得力があるに違いない。


「心操くんすごい…。わたしだったらチーム作るとこからつまずくだろうなあ」
「あー、ぽいぽい。まあ心操の場合その心配はないんじゃないの?」
「え、そうなの?」


顔を向けると、彼女のまん丸の目と合った。えっ、と漏れた声と、試合開始のカウントダウンが重なる。


『3!2!1…!』


どこかに設置してあるスピーカーから、プレゼントマイクによるカウントダウンが始まった。頭にハチマキを巻いた勝己くんは、誰よりも強い騎手として、そこに君臨していた。


『スタート!』


掛け声とともに一斉に騎馬が走り出す。ほとんどが何かを目指してまっすぐ走っていく。その標的が出久くんの騎馬だということに気付くと同時に彼の騎馬の足元に異変が起こった。地面に足を取られているのだ。誰かの個性だろうけど、なんで出久くんが狙われてるんだろう。勝己くんが勝てないほどの強個性だとしたら敬遠されてもおかしくないのに。
ふと、隣の友達が何かを見上げてるのに気付き、同じように目で追う。スタジアムの屋根に設置されてる固定モニターだ。どうやら騎馬戦の順位が映し出されているらしい。


「えっ」


思わず目を疑う。なぜか、出久くんのチームのポイントだけ変なのだ。一、十、百……0が多すぎてもはや何の位まであるのかわからない。こんなの他の人たちが束になっても追い越せない。


「一位のポイント、なんであんなに高いの?」
「え?そりゃあ障害物競争一位のポイントだけ1000万だからでしょ」
「いっ…」


いっせんまん……。途方もない数字だ。確かにさっきのルール説明で一位だけ高いポイントだった気がしたけど、上の空で聞いてたから気にしてなかった。じゃあ三位は、と聞いてみると、四十二位から二位までは5ポイント刻みで計算されてるらしかった。ああ、なら納得だ。出久くんのハチマキを持っていれば一位は間違いないのだ。どのチームも狙っておかしくない。
勝己くんのチームは600ポイントを越えていて現時点で三位だ。何位まで残れるのかわからないけど、十二チーム中三位ならかなり望みがある。もちろん勝己くんが逃げの姿勢をとるわけがなく、彼もまっすぐ出久くんを目指して進軍していた。


「あっ心操取られた!」
「えっ」


女の子の声に慌てて心操くんを探すと、出久くんを追う騎馬の集団より離れたところに心操くんの騎馬が見えた。彼から遠ざかっていく騎手が首にハチマキを掛けている。オレンジの髪を左側で一つに結んだ女の子だ。あの子に取られたんだろう。モニターを見ると心操くんのチームのポイント数が0になっていた。ぐうと胸が痛む。


「まだ時間ある!取り返せ心操ー!」


C組は心操くんの応援で一致団結していた。後ろの席から様々な歓声が彼へと飛んでいく。「心操くんがんばれ…!」混ざるように小さな声を発したけれど、心操くんはもちろん隣で応援する女の子にすら聞こえなかっただろう。
当の心操くんといえば、観戦のわたしたちの何倍も落ち着いた様子でフィールドに散った騎馬を観察しているようだった。都度モニターを見上げて保持ポイントも確認しているらしく、随分と冷静だ。肝が座ってるんだ。感心しながら、わたしは再度勝己くんへ目を移した。
勝己くんは爆破の推進力で上空から出久くんに迫っていた。あいにく出久くんの騎馬に防がれてしまったけれど、勝己くんの騎馬の人が引っ張ってくれたので地面に足をつかずに済んだ。勝己くんの派手な個性は昔から人の目を惹きつけていたけど、今日も一段と目立つ。騎馬から離れてハチマキを取りに行くなんて大胆な作戦思いつくの、きっと勝己くんだけだよ。

プレゼントマイクの実況で上位四チームが最終戦に通過できることを知った。この数分でハチマキの移動があり勝己くんは五位になっていたため、このままでは通過できない。でも勝己くんはもともと保持ポイントが高いからかなり有利だ。あと一本取ればほぼ確実だろう。まだ焦らなくて大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら、ひたすら目で追う。


『現在の保持ポイントはどうなってるのか七分経過した現在のランクを見てみよう!』


勝己くんの後ろを横切るように男の子の騎馬が近づいてきていた。勝己くんは1000万ポイントの出久くんを見据えていて気付いていないようだ。想像しうる展開に、ふっと心臓が浮く。


「勝己くん!」


思わずあげた大声は歓声に掻き消えた。


『ってか爆豪あれ…?!』


会場のどよめきに煽られるように心臓がどくどくと気味の悪い鼓動を鳴らす。勝己くんのハチマキが奪われた。とっさにモニターを見上げると、勝己くんのポイントは0ポイント、七位まで落ちていた。


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