31 「パスワードがわからないと開けないね…」 先ほどの推理のうち、この家にある物が全て男物であることと家の住人が銀行強盗事件に注目していたことだけを伝えたが、やはり毛利小五郎が真相に辿り着いた気配は見て取れなかった。 とりあえず彼がパソコンデスクの椅子に座り電源を入れるが、当然のようにログインにはパスワードが必須だった。しかしわかりやすい文字列ならまだしも複雑なものに設定してあるとすれば、どこかにメモしてあるかもしれない。探すため、さりげなく屈みデスクの下を覗く。立ち上がる。……うまく行くか? 「お二人はパスワードとかどうされてます?」 「せ、生年月日とか…」 「俺は「小五郎さん」で5563だが」 「あ、いや、とても覚えきれない長いパスワードの場合ですけど…」 「うーん、携帯のメモ帳とかに…」 「俺なら紙に書いて誰も見ねえようなこういう場所に……ん?」 毛利先生がデスクの下を手で探り、そこに貼ってあったメモ用紙を見つける。「あった!パスワードゲットだぜ!」「すごいお父さん!」「さすがですね!」思惑通りの彼の言動に悦に入るのは内心だけに留めておく。 書いてある文字列を打ち込み立ち上げ、デスクトップにあるファイルを開くと、そこには銀行強盗の計画書が記されていた。どうやらビンゴのようだ。強盗犯三人が拳銃を持っている写真もあり、僕の推理通りの男性二人と、一人の女性が映っていた。細身の強盗犯は女性だったらしい。ここでようやく、毛利探偵もあの男二人が強盗犯であるとわかったようだった。彼への疑念を強めながらも、強盗犯の女性とやりとりしていたというメール画面を立ち上げる様子を後ろで眺める。送り主は手川隆代。あとは手っ取り早く住所がわかればそこに向かえる。 「その女の人とメールで連絡し合ってたみたい…」 「ああ。「拳銃は用意できた?」って堂々とメールの題名に付けてやがる。……ん?女からの引っ越しメール…」 「あ!住所載ってるよ!」 後ろから画面を覗き込み、記憶する。「行ってみましょう!」鳥矢町か、下手すると彼女はすでに最後の強盗犯と接触してしまっているかもしれない。誘拐されたのことを考えると無意識に眉をひそめていた。 逸る気持ちを抑えようとするが二人の先導を切って部屋を出てしまう。変には映るまい。しかし、自分の思い描いている毛利探偵の弟子像とは違った。 蘭さんが助手席に、毛利先生は運転席側の後部座席に乗り込む。念のためカーナビをセットし目的地へと走り出す。「コナンくんとさん大丈夫かな…」不安げな蘭さんの声。彼女の心配はもっともだ。 「蘭さん、気休め程度にしかならないかも知れませんが、今すぐあの二人に危害が加えられるおそれは少ないと思いますよ。我々が先ほどのメールでの警告を無視して警察に連絡するおそれもあるわけですから。検問に止められたときのために、人質には生きていてもらわなくてはなりません」 「しかしなあ、彼女の目的が残りの強盗犯を殺害することだとしたら、その巻き添えを食らってってことも…!」 「お父さん!」 「ええ、どちらかは間違いなく拳銃を所持しているでしょうし、運悪く二人が…」 「運悪くといやあ、あの助手…」 バックミラー越しに毛利先生を見、それから正面に戻す。そう、そちらの方が目下の問題だ。「ええ…ですから、彼らが危険な状況にあることは変わりありません」というかすでに、間の悪さゆえに巻き込まれているといえるのだが。 と、今度はサイドミラーに気になるものが映る。 「あ!ウソ…コナンくんからメール来てた…「大丈夫だから心配しないで」って」 「…どうやらコナンくんの方は自ら彼女について行ったようですね」 「あのガキ…また探偵気取りかよ」 「まあ、子供の好奇心は探偵の探究心と相通ずるものですから」 この車のすぐ後ろを尾けているバイクがいる。ヘルメットで顔は見えないが、まさか。 |