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胸に何かがつかえたまま一週間が過ぎた。あれからや木兎さんに変わった様子は見られず、さり気なく探りを入れてみるも芳しい反応は特に見られなかった。連絡先を交換したのは会話の流れとか、ただ仲良くなったからというだけだったのだろうか。
とにかく今週も一緒に帰るだろう。号令に合わせて軽くお辞儀をしながら、帰りの支度を進めていた。


「京治くん!」


横に目を向けるとやはりが入り口から顔を覗かせていた。ここ最近は向こうのクラスの方が早く終わるらしい。立ち上がり、「ごめん、ちょっと」待って、言おうとした声が遮られた。


「よっ!」


…え。
の後ろから木兎さんが姿を見せたのだ。身長差のおかげで彼の顔と敬礼の手がよく見える。しかしそれにはすぐに反応できず、頭の中ではひたすら先週のことが駆け巡っていた。それと同時に、いやな予感に襲われる。頭が働かず、言うべき台詞も浮かばない。


「ごめん京治くん、今日ちょっと用があるから、木兎さんと帰るね!」
「え、」
「そんじゃな赤葦〜」
「また明日!」
「は、はい。また明日…」


「よし行くぞちゃん!」「はい!」声を掛ける木兎さんと威勢良く返事をしたが走って去って行く。嵐のような二人にしばらく呆然としていたが、すぐにカッと腹が熱くなった。表情には出すまいとしながら、手は堪えるようにカバンの持ち手を強く握っていた。
なんで木兎さんとが。先週のあれからやっぱり何かあったのか。荷物に目を落とし、それらを手早くまとめ教室を出た。まさか、追い掛けるなんてことはできなかったけれど。



十二月に入ったこの頃は日が落ちるのが早い。夕日が沈むのを横目に、一人の帰り道をぼんやりと歩いていた。

が木兎さんに懐くのはよくわかる。木兎さんはバレー部の主将でエースで、ちょっと子供っぽいところがあるけれど明朗溌剌な人だし、も基本明るい子だから波長が合うのだろう。それは、嫌でもわかる。
じっとアスファルトを眺める。むしろ今まで俺に懐いていたのがおかしかったんだ。幼なじみといったって、俺とには共通点すら思い浮かばない。いつも柔らかく笑う彼女から貰うものはあっても、多分俺は何も与えられていないだろう。ただ今まで少しずつ積み重ねてきた習慣や時間が、を錯覚させているだけなのかもしれない。そうだ、俺はから何も聞いたことがない。聞かなくてもわかってると思っていた。
はいつか、木兎さんをすきになって付き合うかもしれない。


…………いやだ。


無意識のうちに足を止めていた。それに気付くと同時に、何かがポロッと頬に落ちた。それが自分の涙だとわかったときは驚いた。拭うとそれ以上は零れなかったが、自分がこれ以上になく動揺していることに気付かされる。そしてひどく恥じ入る。今まで俺は、何も言わなくてもとは同じ気持ちでいるんだと思っていた。ただの勘違いだ。そんなの思い上がりでしかないのに。

と木兎さん、二人が並んで歩く姿を想像する。心臓が痛い。そこは、俺の場所だ。
足は動き出せなかった。縫い付けられたように踏み出せない。灰色の地面で視界を埋め尽くしながら、吐き出す息は震えていた。

木兎さんは尊敬している。でも、そうだとしたって、はあげたくなかった。