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帰りの号令後すぐに教室を出る。彼女が入り口から顔を出さないところを見ると今日は俺の方が早かったらしい。スクールバッグを肩にかけ、返すつもりのCDの入った袋を手に持ち廊下に出る。と、すぐに、少し離れたところにの姿を見つけた。
反射的に頭がついと動く。そして目を見開いた。そこにはなぜか、と一緒に、木兎さんもいたのだ。
二人は向かい合って談笑しながら携帯をいじっているようだった。訝りながら近づいていくと、先に気付いたが俺に手を振った。「京治くん!」「おー赤葦!」遅れて木兎さんが顔を上げ手を振る。放課後すぐのこの時間は生徒の影も多いので、中央階段近くのそんな目立つ場所で呼ばれたくないのが本音ではあった。が、今はそんなことも言ってられない状況だ。軽く会釈だけして、冷静に、と思いながら一定のペースで二人の元へ近づく。そのときにはすでに携帯はしまわれていて、何をしていたかは推測するに留める他なかった。

冷静に。それはただの言葉としてだけ、脳内に埋め尽くされていた。意味は成していなかった。なんだ、何か嫌な感じだ。今は三人でいるのに、俺と二人の間に境界線が引かれてるような感覚。他の人となら気にならない。でもとの境界線は、だめだ。


「…あ、、これ。遅くなってごめん」


不自然に見えないように、彼女に一歩近寄りCDを差し出した。独占欲だ、よくわかる。なかなかにみっともないものだ。二人だけの共通の話題で引き寄せたかったのだ。「ううん全然、」がそれを受け取ると、しかし木兎さんが覗き込むように腰を曲げた。「何それ?」あ。心臓に針が刺さったみたいに痛む。見上げたが、木兎さんのために、袋からCDを取り出した。


「木兎さん知ってますか?」
「え!それ!!すんげーすき!」
「ほんとですか!!」


ぎょっとする。突然の盛り上がりを見せた二人に口を挟むことはできなかった。から借りたそれは彼女の特にすきなアーティストのアルバムだ。最近集めるようになったのを、あまり音楽に興味のない俺に貸してくれたのだ。それをまさか、木兎さんもすきだとは。話題に一度も上がったことはなかったし、俺と同じで音楽に疎そうだと思っていたんだけれど。
でも確かに、木兎さんのすきそうなアップテンポの曲調に前向きな歌詞が多いアーティストだから、言われれば納得もできる。そこまで考えてから、スッと背筋が寒くなった。独占欲が、失敗したことにより露呈した気分になったのだ。余計みっともない。漠然と二人の会話を聞きながら、俺はさっきより大きい隔たりを感じていた。


「で、京治くん音楽よくわからないって言ってたから貸したんです!ね、京治くん、どうだった?」


顔を覗き込むように俺を見上げたにハッとして、すぐに脳を稼働させる。「…ああ、よかったよ」一曲目を聞いた途端の顔が浮かんだくらいに、彼女らしさを感じた借り物だった。「でしょ!」大きな口を開けて笑うにうんと頷く。それだけで、心の動揺は少し収まったようだった。


「やべ、俺そろそろ行くわ」
「あ、はい!さようなら」
「また明日」
「おう!」


木兎さんはに片手を挙げ応じると、すれ違いざま俺の肩を叩いた。


「わかってるぞ」
「、え」


振り返るも、彼は背を向けながら手を振るだけだった。何をわかってるって?……違う、それは大体想像がつく。そうじゃなくて、その台詞に込められた意味は、なんだ。


「…、さっき木兎さんと何してたの?」
「ん?連絡先交換してただけだよ?」


落ち着けない。