2 なぜ木兎さんを始め十数人が練習試合、しかも他校でのそれのあとわざわざ自分の高校に戻ってまで自主練しようとしたのかは大体わかる。日曜である明日の午前練のあとは体育館が使えないからだ。普段なら練習後に居残って自主練をしていく部員たちだったが、それが無理だというなら今日やってしまおうということだ。俺自身も、体育館の使用不可を聞いてからそれを考えていたくらいだった。 正門をくぐり、体育館への道を辿る。本来後輩が持つ役目のボールバッグを背負いながら意気揚々と先頭を歩く木兎さんを気に留めつつ、俺は隣の木葉さんと明日のミニゲームについて話していた。 「じゃ、スタメンを軸にローテしてく感じで」 「そうですね。もう春高は再来月ですし」 「メンツは…」 「俺が今日まとめておき、」 「ちゃん!」 木兎さんの大声に振り向く。彼の背中を避けるように一歩横にずれ視線の先を追うと、確かにちょうど昇降口を出たところに桃色のマフラーを巻いたがいた。おととい言った通り昨日からタイツを履くようになったらしい彼女は前より見ていて暖かそうでほっとする。 突然のの登場には驚いたが、とりあえず。手を振る木兎さんに気付き慌てて会釈をする彼女から目を逸らし、木葉さんに言いかけた言葉を伝え直した。すると彼は気を遣ってくださったのか「頼むわ。じゃあ先行ってんな」と他の部員を引き連れ体育館へ向かって行ったのだった。その背中にすみませんと謝っている間にはこちらに駆け寄ってきていて、俺と木兎さんの前まで来るとピタリと立ち止まった。 「部活ですか?」 「そ、練習試合してきた!今から自主練!」 「えっすごい!頑張ってください!」 「おう!」 木兎さんとの賑やかなやりとりを眺める。俺の幼なじみと先輩という繋がりで知り合った二人はそこまで親しいというわけではなかったが、お互い人見知りをしないタイプの人間だからか少ない回数ですぐに打ち解けていた。「は友達の手伝い?」前に彼女から、美術部の友人の手伝いといってときどき休日の学校に来ているのを聞いたことがある。俺が口を挟むとは目を合わせ、うんと大きく頷いた。 「そうだ京治くん、明日ご飯みんなで食べようって」 「ああ、わかった」 「それでお母さんたちが……あ、すみません!練習あるのに」 「ん?気にしないでいいぞ。俺はわかってるから」 「は?」 「俺は赤葦のことわかってるからな!」 「なんスか、気持ち悪いです」 肩に回された腕を軽く払うと彼はすぐに離れ軽快に笑った。唐突な発言には内心首を傾げるが、木兎さんの高いテンションにはいい加減慣れている。頭の後ろで手を組む彼に溜め息をつくのもいつものことだった。 一度落とした視線を上げると、が木兎さんをじっと見ているのに気が付いた。「…?」呼び掛けるとすぐにハッとし、今度は何でもないと首を振る。どう見ても何でもなくはなさそうだったけど。どうかしたのだろうか。今度は本当に首を傾げる。 「じゃあわたし帰ります!京治くん、木兎さん、練習頑張ってください!」 順に目を合わせながら激励の言葉を述べたは、それに応じた俺たちとほぼ同時に足を踏み出した。すれ違うようにお互いの横を通り抜けていく。そういえばボールは木兎さんが持っているんだった。早く行かないと他の人たちに迷惑掛けてしまうだろう。思いながら、普段より早足で体育館を目指した。 しかし、数メートル進んだところでふと、何かに引き寄せられる感覚がした。それに逆らわず、後ろを振り返る。 (…あ、) もこちらを振り向いていた。目が合うと彼女は、それはもう嬉しそうに笑顔を見せ、ひらひらと手を振った。それにつられて俺も笑みを零す。同じように手を振り返し、進行方向に向き直った。自主練も頑張れそうだ。 → |