またしても任務を失敗してしまった。相手の起爆札をもろに食らってしまったためお腹や腕にひどい火傷を負った上ターゲットは仕留め損ねて逃がすという失態。どうせならわたしの存在ごと爆発してしまえばよかったかもしれない。リーダーの呆れたような溜め息を聞くのが嫌だった。嫌だったけど、失敗の報告はしないといけないからボロボロのまま彼の元へ行くと溜め息をつかれる暇もなく治療しろと追い返されたのでそこは不幸中の幸いだった。小南に看てもらい、消毒や包帯を巻くのも全部してもらった。幸い火傷以外は大きな怪我はなく、優しい彼女はしばらく安静にしていろと言ってわたしの部屋を出て行った。任務失敗の件を代わりに伝えてくれるらしい。

リーダーは暁の活動目的に賛成も納得もしていない上失敗ばかりのわたしを呆れながらも置いといてくれるし、小南は怪我をいつも丁寧に手当てしてくれる。わたしは、帰える場所があって、そこに人がいることがとても幸せなのだ。ああよかった、暁に入ってよかった。
そんなことを考えて目を瞑っていたら寝てしまったらしい。ぼんやりとした頭のまま、人の気配に視線を左に動かすとそこには仏頂面のサソリがいた。彼の姿を見るのは実に一週間ぶりではないだろうか。相変わらず良好そうな様子の彼を捉えると自然と嬉しさが込み上げてくる。痛みに耐えながらも上体を起こし、挨拶をする。


「おはよう」
「チッ…てめえのせいで任務が増えた」
「……。え?」


少し考えて、意味がわからなくて首を傾げた。すると彼はご丁寧に、わたしが仕留め損ねたターゲットを殺すという尻拭いを任されたことを心底迷惑そうに説明してくれた。ああ聞きたくなかった。怪我人にも容赦ないのがサソリだ。俯いたままごめんなさいと謝ると彼は眉間に皺を寄せたままフンと鼻を鳴らし腕を組んだ。


「おまえはせいぜい里のDランクがお似合いだな」
「D…て、飼い猫探しとかだよね。え、わたし下忍レベル、って言いたいの」
「実力だけ立派になりやがってなあ、可哀想に。メンタルがついてってねえよ」


はたと気付く。さっきからサソリはわたしの気分なんかまるで無視して、至って真面目な調子で話している。その真摯さ故に、向けられた哀れみの目を逸らせないのが何よりの証拠だ。それに、言いたいことはなんとなくわかるのだ。暁に飛び込んでから何度も失敗する任務。主に賞金首を狙うそれを遂行するとき、わたしはまるで地に足がついてないかのような感覚を覚えるのだ。


「おまえが里を抜けたのは完全に誤った判断だ」


優秀だった、と思う。アカデミーでは飛び級で卒業したし、中忍にも上忍にもあっという間になれた。それに伴う任務は模範以上の成功を収めてきた。でもやっぱり暗殺は、化粧水みたいに肌に合わなくて、勢いで里を抜けたあとは要人の護衛を主体にお小遣いを稼いでいたのだ。
そうだったから、暁に入ってからの暗殺任務は本当に、いつまで経っても慣れる気配がなかった。護衛の任務を請け負ううちに戦闘技術は向上したし、護衛のために敵を戦闘不能にするのは幾度となくやったのに、なんというか、自分でもボーダーラインがわからないのだけれど、暁の任務は大体地に足がつかなくなる。
頭のどこか、本当に隅っこの方で思っていたことを、多分サソリは同じように考えていて、今それをわたしに提示しようとしているのだろう。尻拭いの腹いせとかではないと思う。こいつも前から気付いていたに違いない。ああわたし、サソリの顔を見れて嬉しかったのになあ。怪我をした状態でなんか、会わなきゃよかった。逃げられないよ。ほとんど無意識に掛け布団を鼻まで持っていく。身を隠すことによって彼から防御しようとしたのかもしれない。彼の、言葉の攻撃から。


「おまえ現状でやりたいことねえんだろ。里を抜けてまでやりたいこともなくて、おまえみたいな奴がやっていけると思ってんのかよ」


わたしみたいな弱い奴が、意志も弱くて生き延びれるわけがないと、そう言いたいのだろう。それはその通りで、抜け忍は里を越えてどこでだって首を狙われる身だ。デイダラみたいにやりたいことはなかった。里を抜けた理由も、誰かに説明するほどの価値もないのだ。


「快楽主義者でもねえんだろ。そうじゃないのに明確な目的なしで生きていけるほど抜け忍は簡単じゃねえ」


畳み掛けるサソリの口を塞ぎたい。眉は情けなく下がっているだろう。目は逸らせないし、彼に触る勇気もないなら、自分の耳を塞ぐしかない。


「共同体欲しさに暁に入ってんじゃねえよ」


吐かれた言葉は痛かった。本当にその通りで、サソリが嫌いそうな生ぬるい考えだった。抜け忍として甘すぎる考えだからこそ言い返せない。ごめんなさい、と消えそうな声で呟くと、彼の溜め息が聞こえた。リーダーから逃れた代わりにサソリに吐かれてしまった。「つまりおまえは」サソリがベッドに腰掛ける。


「忍者には向いてねえってことだ」
「…でも多分辞められないよ」
「ああ……だろうな」


そう言って、少し悲しそうに微笑むサソリ。組織の守秘義務なんか関係ない、彼の言う通り一人が嫌なわたしはもうここにしかいられないとわかっているんだろう。それでも可哀想にと言うおまえはわたしに忍者を辞めてほしいのかほしくないのか。彼の真意はいつだって読めない。