弓親さんはとても美しい人だから、彼の恋人になる方もさぞかし美人なんだろうと思っている次第であります、はい。


「おまえの弓親美化は目を瞠るものがあるな」
「そんなことないですよ」


 木刀を担ぐ一角さんは緩んだ顔のわたしを見て、なんだかとてもうんざりしたご様子だった。今日は晴蔵さんがお酒の買い出しに行かれたので、自分は洗濯物を畳む当番だった。縁側で陽に当たりながら、一枚一枚丁寧に畳んでいく。わたしと晴蔵さんは、十一番隊で毎日こういう、いわゆる雑用をやっている。いくら霊力があっても死神として現世で戦うより性に合っているので、護廷隊にも女中代わりの仕事が存在していてよかったなあと思うばかりだ。
 さてこれが最後の一枚だ。終わったら茶屋にでも行こうかしら。そういえば、さっきからまったく話してくださらない一角さんはどうしたんだろう。ふと横を向いてみると、あらびっくり、すっかり姿を消してしまっていた。すごいなあ、まったく気付かなかったよ。きょろきょろ見回してみるも影も形も見当たらなかったので、ほとほと己の死神としての才能のなさに呆れるばかりだ。
 溜め息をつくと、今度はスタスタと足音が聞こえてきた。見ると、晴蔵さんが戻ってきていた。


さん、洗濯物ありがとうございます」
「いいえ、お酒は大丈夫でしたか?」
「はい。先に冷蔵庫に入れておきました」
「それはありがとうございます」


 お礼を返すと頷く代わりに笑みを浮かべる、晴蔵さん。彼は一角さんや弓親さんと同期らしく、数年前までは腕っ節もなかなかのものだったらしい。紆余曲折を経て当時のムキムキな筋肉が落ち、厳ついともっぱら形容されていた顔つきも今の優しいかんばせとなったそうだ。現役時代の晴蔵さんを知らないけれど、霊力を奪われてしまっても十一番隊に身を置きみんなの世話を焼く彼を、わたしはとても尊敬していた。


「晴蔵さん、これからお茶しに行きませんか」
「お茶ですか」
「おいしいおはぎでも食べましょうよ!」
「すみません、今日はこれから少し用があるので。さんは別の人と行ってください」
「そ、そうですか…」


 振られてしまった。悲しい。けれどすっかりおはぎを食べる口になっていたわたしはどうしても諦めることができず、ちょっと心細いけれど一人で行くことを決心した。洗濯物をあるべき場所にしまいひと段落ついてから、お財布を持って隊舎の入口へと向かう。


「あれ、こんにちは弓親さん」


 隊舎の外に出ると丁度弓親さんが戻ってきていた。向かい側からいらしていた彼に立ち止まってお辞儀をすると、相手も歩みを止めて立ち止まった。足しか見えないけれど、それだけでも一つ一つの所作が美しいと思わせる。はあ、男にしておくのはもったいないと、いろんな人から言われていそうだ。


「お出掛けかい?」
「はい、おはぎを食べに」
「へえ。一人で?」
「は、はい」


 ぎくっと強張る。そこは聞かないでいただきたい。男性の弓親さんたちと違って女性死神が一人でいると、気にしすぎなのかもしれないけれど、かなり浮くのだ。でも諦められないから、一人でも勇敢に茶屋に入り温かい玉露入り緑茶とおはぎを頬張るつもりだった。いくら弓親さんであろうと、止めたって無駄だ。
 弓親さんはわたしを訝しげに見下ろすと、「寂しくないの?」と問うた。ああ友達いない奴だと思われた。 確かにわたし、弓親さんの前で友達といた記憶がない。


「さ、びしいですけど、晴蔵さんを誘ったら断られてしまったので……」
「晴蔵?」
「はい」
「……ふうん」


「僕が行ってあげようか」へ?とっさに目を真ん丸に見開く。え、弓親さん、今何と?


「おはぎなら僕も食べたいし」
「えっ、あっ、え……ほんとですか?!」
「うん」


 ひょっと飛び跳ねてしまう。ほんと?!弓親さんが!あ、の!弓親さんが!わたしなんかと一緒におはぎを食してくださると…?!えっ、今日わたし誕生日だっけ?なんというサプライズだ!うわあもったいなくて断れない、というか絶対断りたくない!


「ぜっ、ぜひお願いします…!」
「うん。じゃあ案内して」


 きっと顔は真っ赤だろう。弓親さんが、何でもないように隣に並ぶ。その瞬間、わたしはなんだか変な気分になって、まるで別の次元に飛んでしまったかのような感覚に陥る。だってあの、高嶺の花の弓親さんだ。別次元だよ、別次元。わたしと弓親さんは別の次元にいて、その二つが偶然重なってしまったような、そうだ、現世で言うCGみたいな感じだ。なんだかほんとうに、夢みたいだ。


はいつも晴蔵と出掛けているのかい?」
「えっ?そ、そうですね、十一番隊で誘えるの、晴蔵さんしかいらっしゃらないので」
「ふうん」


 心許ない返答を否定できるかと記憶を辿ってみても、やっぱり晴蔵さんとしかお茶をした記憶がなかった。他の隊士さんたちは、悪い方々でないとわかっていても、雰囲気やお顔が怖くてとても誘える勇気が湧いてこない。


「他の人も誘えばいいじゃないか」
「こ、怖いので……」
「怖い?」
「ちょっとですけど、なんか、あの、い、厳ついといいますか……」
「ああ、確かにね。じゃあ一角も?」
「一角さんは、あんまりお茶とかすきそうじゃないですし…」
「僕は?」


 …………へ?


「えっ……えっと…?」
「……」
「あ、あの、……弓親さんは、高嶺の花なので……」
「え?」


 うああなんか間違えた!未確認生物を見るような顔された!よく考えたら高嶺の花って女性に使うものだよ馬鹿!おまえは馬鹿か!言葉を慎めこの馬鹿!


「すっ、すみません…!」
「いや。やっぱり面白いよね君」
「本当にすみません!」
「僕が高嶺の花ね……うん、悪くないよ」


 そう言った弓親さんの背景に花が舞ったように見えたのは、一角さんの言う弓親さん美化というやつなのかもしれない。でも見間違いじゃない、わたしの目は絶対正常だ。だって弓親さん、とっても美しい人だもの。