「あがり」
「……」


ぺいっと捨てられたKのダブルを見、それから雲雀を忌ま忌ましく睨んだ。なんでやねん。なんで五回やって五回負けんの。カードケースの下に伏せて置いておいたトランプを見てみるとスペードの1だった。わたしが持っているカードはハートの…言うまでもないか。べしっ。雲雀に負けじとその二枚を叩きつけた。


「なんなの雲雀!誰おまえ!」
「言ってることが支離滅裂だよ」


あくびをしてカーペットから立ち上がった雲雀は「皿洗いよろしく」と言って部屋に戻って行った。なぜだ。なぜ勝てない。じじぬきにズルもクソもテクニックも無いはずだ。スピードじゃなくて大富豪でも無いのだ。(大富豪はやってないがスピードは前やった。惨敗だった)

見ておわかりのように、わたしと雲雀はルームシェアをしている同居人だ。雲雀って言っても小鳥のアレとかではなく、れっきとした人間であり並盛の秩序の雲雀恭弥である。まさか不良の頂点に立つ男と一緒に住んでるなんてもちろん家族以外には誰にも内緒である。そうなることに至った経緯は長くなるので割愛させていただくが、とにかく、わたしたちは度々家事を賭けてゲームをする。いつもそれをふっかけるわたしとしては目的は家事を押し付けることではなくて暇を潰すためなんだけど向こうは違うらしい。そして今までの戦績を見たら圧倒的にわたしは黒星だらけだ。実家にあったトランプ、オセロ、ダイヤモンドゲーム、エトセトラ。子供がわたしと去年結婚した姉しかいないため、これらの娯楽を持って行ってもまるで咎められなかった。大学生にもなってそんなのやるの?と呆れられただけだ。まだ雲雀とはやったことないけど最近持ってきたドラえもんのボードゲーム各種もある。今度はドンジャラをふっかけてみよう。
わたしの数少ない白星はテレビゲームが主である。しかしそれも、一回勝って調子に乗ってもう一回ふっかけると負けるというミラクルが起こる。もともとどちらもテレビゲームなんて滅多にやらないっていうかわたしは中学までやってたけど雲雀は初心者なのだ。なのに二回目には負ける。わたしのピノキオは雲雀のテレサに勝てない。わたしのリンクは雲雀のカービィに勝てないのだ。ちょっと今度マリカとスマブラの秘密特訓でもしようかしら。カーペットに散らばったトランプを眺める。「


「まだ洗ってなかったの」


それは居間に来た雲雀の声だった。どうやら結構ぼーっとしていたらしい。時計を見ると五回目のじじぬきが終わってから三十分近く経っていた。「今洗おうとしてた」わたしは雲雀によく見え透いた嘘を使う。「早く寝なよ」そんなのはどうでもいいらしく、そう言いながらココアを作ってる雲雀の夜は長いのだろう。彼はよく夜更かしをする。粉を入れたマグカップにお湯を注いでいるのを見てなんだかわたしも飲みたくなって「わたしのも作って」って言ったら雲雀はスプーンでくるくる掻き回しながらちょっとだけこっちを向いた。


「明日は朝から講義あるんだろ」


…なんで知ってるんだろ。わたしと雲雀は同じ大学に通っているけど学部が違うので日課もばらばらなのだ。それにわたし面と向かって雲雀に、月曜日が何々でーみたいな、日課の話をしたことない気がする。「よく覚えてるね」言うと雲雀はスプーンをそのままにマグカップを持って完全に体をこっちに向けた。


「これだけ一緒にいたら覚えるよ」


ふっと小さく笑った雲雀に、そうだね、という言葉を飲み込んだ。本当はわたしも雲雀が明日の講義が午後からで余裕があるのを知っているのだ。なんだかとても照れくさくなって、わたしは俯いてトランプを片付けることでごまかした。