ちらりと、伏せた目をサソリに向けると彼は視線を流すようにかわし、わたしとサソリが目を合わすことはない。横顔が綺麗だ。見とれてしまう程に。人形なのに、いいや、サソリ自身が造った人形だからこそ、その美しさが衰えることはないのだろう。


「きっとおまえは死ぬ最後の一瞬まで綺麗なんだろうね」


擦れた声でそう言って、そのまま顔を膝に埋める。もう真っ暗になってしまって何にも見えなくなろうがどうだって良くなった。隣にサソリという存在があるならべつに他に何もいらない気がするなあ。あ、それは言い過ぎか。食べ物はいるしお風呂にも入りたいものね、サソリは何にもいらないのかな。自分がいれば生きていけるものね、あ、なんかナルシストみたい。隣でサソリの息遣いが聞こえた。


「俺は綺麗になんて死ねないぜ、それはわかってる」


ああいつもの自信家のサソリの台詞とは思えないね。どうしちゃったの、天才造形師さん。顔をゆっくり上げる。サソリは相変わらずのポーカーフェイスで窓から覗く空をじっと見ていた。それがなんだかすごく切なくて、わたしは泣きそうになった。
もしおまえが死んでしまうとしよう、そうしたらわたしがおまえの破片を一つ残らず拾ってみせる。ゼツに処理されてしまう前に、わたしが完璧に、…考えると悲しくなってくる。サソリが死ぬんだったらわたしもあとを追いかけかねないなあ。ていうか、死ぬなんて物騒な話やめにしよう。サソリは永久に生き続けるのだ。


「おまえ俺の傀儡が壊されて使い物にならなくなんの、何体も見てきただろ」
「サソリ、もういいよ」


「あんな感じで俺は死ぬんだろうぜ」サソリの低い声はわたしの耳へするりと滑り込んでくる。嫌だ嫌だ嫌だ、見たくない聞きたくない。もしサソリが死ぬなら、死ぬときは、わたしはきっと、目を瞑って耳を塞いで、その場でうずくまるだろう。綺麗なものも醜いものももう何にもいらなくなるだろう。サソリがいないのならそれらに何の価値もないし何の価値も見出だせないだろう、サソリがいるからそれらに価値があって、わたしは大切にしたいと思うのだ。
やっぱりわたしの中心にはサソリがいる。どれほど情けない顔をしていたのだろう、サソリはわたしを見ると眉を下げてひどく悲しげな顔をした。手が伸ばされてわたしの頬に触れる。泣いてなんかいない。
わたし思うよ、サソリ、きっとおまえが死ぬ姿なんてわたしは拝めないし拝まないし拝みたくないから、だからおまえはわたしの中で綺麗な死を迎えるよ。美しく死ぬよ。だってサソリがほんとはどんな残酷な死に方をするかなんてわたしは知らないんだから。だからね、わたしはきっとおまえより早く


「わたしはきっとおまえより早く死ぬよ」


その時は精一杯美しく死んでみせるから、サソリは美しく笑ってみせてね。そう言うとサソリは本当に儚げに、とても美しく口付けた。もう涙なんて枯れ果てた。