ショッピングモール二階、ミスタードーナツの隣には高校生向けのアクセサリー屋さんがある。わたしはそこで友達の誕生日プレゼントを買おうと放課後一人で出向いた。ピンやらゴムやらストラップやらを眺めながらぼけーっとしていると隣でカラカラッと乾いた音がした。経験上それは商品が落ちた音だってことは瞬時にわかったのでわたしは身の周りを見回した。え、わたしが落とした?


「あーやっちゃった。すみませんー」


どうやら落としたのはわたしじゃなくてすぐ近くにいた女の子で、黄色のリボンをつけたその子はしゃがんでピンやストラップやらを拾っている。その現場はわたしのすぐそこだったから見て見ぬふりなんてできない状況で、わたしはさりげなくその子が拾うのを手伝った。しゃがんでいっしょに掻き集めると女の子が不思議そうに顔をあげたのがわかったけどそこで目を合わせるとなんだか恥ずかしい気がしたのでわざと気付かない振りをしてピンを元あった場所に戻した。そのあと最後のストラップを戻そうと手を伸ばしたら先に取られて、見上げると女の子がフックにそれを掛けていた。店員さんが駆けてきて大丈夫ですかとか聞いてるのを女の子はにこにこ笑いながら大丈夫ですって返し、店員さんがわたしを見たので軽く会釈しておいた。


「ありがとうね」


店員さんがレジへ戻って行ったあと、その子は笑って言った。大きな目でじっと見てくるもんだからわたしはとっさに逸らした。だってねえ、照れる。


「いや、平気です、全然」
「そーお?あっねえねえ、あたし今リボン選んでんだけどね」


ぱんっと手を叩いたと思ったらわたしの手を引っぱって自分の方に引き寄せた。「おわわわっ」びっくりしてよろけた。


「たくさん色あるんだよねー、何色があたしに似合うと思う?」
「はあ」
「あっあたし茜零っていうんだーよろしくね」
「あ、です」
「うんよろしくー。で、どーよ」


にっと笑う茜零ちゃんはあれかこれかといろんなリボンを手に取って見ている。わたしはじっと彼女を見て、それからリボンを見た。青、黄緑、ピンク、オレンジ、赤。列の一番端の赤いリボンを取った。


「赤とか似合うと思うよ」
「おおっ赤かあ!」


そう言って黄色のリボンを外す。さらりと髪の毛がほどけて、ああすっごく綺麗な髪だとかぼんやり思った。茜零ちゃんは慣れた手つきで髪を結っていく。「よしっ」と決めた茜零ちゃんはわたしに振り返った。


「どーよ」
「うん、似合う」
「ありがとー」


ほんとに嬉しそうに笑うもんだからわたしもつい口元が緩んだ。と、わたしの携帯がバイブで鳴った。スクールバッグから取り出す。携帯の小窓を見ると一護からの電話だった。黒崎一護、奴とは家がお隣さんなのだ。


「あ、じゃあわたし用事あるから、ごめんね」
「んーん、ちゃんといれてすっごく楽しかった!ばいばい!」


そんな恥ずかしい台詞を吐くもんだからわたしは真っ赤になってしまった。隠すようにして店を出る。茜零ちゃんはまだ店の中をうろうろしていた。


「もしもし」
『あー?』
「うん」
『おまえ今どこにいるよ』
「は、なんで」
『柚子がおまえといっしょに夕食作りてえんだと』
「えっまじで?分かったすぐ帰る」
『おー。俺帰り遅くなっから、先食ってて』
「あ、分かった」


通話を切って携帯をしまう。最後にもう一度、店内を見たら茜零ちゃんはもういなかった。帰ったのかな、思って踵を返し「ぎゃっ」「だーれだ!」目を隠される。……なんだこの古典的ないたずら…。


「せ、茜零ちゃん」
「あったりー!」


手を外されて振り返る。けれど茜零ちゃんがいるはずのそこには誰もいなかった。代わりにひらひらと、もみじが舞い落ちていた。
どこ行ったんだろうとは思ってみたけどきっとわかるはずもない。だって茜零ちゃんなのだ。きっとまた会えるんだろう、なんとなくそんな気がして目を閉じるとあの笑顔が浮かんできた。ああ、ねえ、赤いリボン似合ってるよ。