サイが第七班に配属されてからけっこう日が経って、わたしは根の任務を立て続けにやってたからそういえばサイは今頃どうしてるのかなとか、ほんと、今更ながらに思った。奴は作り笑いの名人で、だけどわたしはそんな器用なことできない。ていうか感情を消し去れてない、から、だからダンゾウ様は未熟なわたしをサイと組ませていたのだろう。でも結局わたしは感情を無くすことはできなかったしサイは別の任務で、そう、第七班とかいう九尾の子のところへあっさり行ってしまった。行っちゃったのだ。

ねえサイ、おまえそういえば、慕ってたあの人いたよね、あの人もう死んじゃったけどさあ、なんて名前だっけ、おまえなら忘れてないでしょ、ていうか、忘れられないでしょ。

立て続けの任務が全部片付いて、わたしは久しぶりに視界が広くなった気がした。べつに四六時中あのお面を付けていたわけでもないのに、いや、一日中付けてたときもあったけど、とりあえず、久しぶりに呼吸が楽になった。だからか、サイを思い出した。
あいつがよく入り浸っている森がある。わたしはわざわざそこに行って、サイを捜した。案の定奴はそこで絵を描いていて、でも抽象画なのは相変わらずで、久しぶりに会ったサイは相変わらずどこか大人びていて、わたしより年下のくせに身長高いのがむかついたけどそれも相変わらずで、何が変わったって、そりゃ、その柔らかい表情だよ、ばかやろう。心臓がきゅうと縮んだ。ときめきとかではない。


「サイ」
「あ、さん」
「久しぶりだね」
「そうですね」


あああああもうやめてよおまえ、なにその笑顔、おまえらしくないよ、作り笑いは、どこ。どこだよ。ねえ、消えちゃったの。それでもサイはサイだった。何も変わらなかった、違う、変わったよ、おまえ、見事立派に変わっちゃったね、うん、いいさ、そう、変わらなかったのはわたしだ。ずっと一定地点に立ち止まって、サイはあっという間に進んだんだ。もう遅い。


「どうしたんですか」
「ああ、いや、ね」
「はい」
「隣いいかな」
「どうぞ?」


取り乱してるのは自分でもわかってるけど狼狽えてんのを隠せない。みっともないねわたし、先輩のはずなのにわたし、おまえに何一つ、何にも勝てないんだよ、ほら、みっともない。

サイ、最近どうよ。平静を保ちながらわたしは問う。班の仲間とも仲良くなれてきてね、ああ、僕が後釜で入った、知ってる?うちはの末裔の子、サスケくん、あの子に会ったんだよ。サイはにこにこ笑いながら話す。わたしは相槌を打ちながら、それで心臓はばくばくと鳴って、手汗が滲んできた。見ない間にずいぶん成長したもんだね、仲間の意味なんて、おまえいつ覚えたの。そんなに第七班はいいの。


「ねえサイ」
「ん?」
「おまえの慕ってた、あの人の名前ってさあ」
「ああ、兄さんのこと?」


うん。言わずに頷くだけして目を伏せた。これサイに聞いてよかったのかな、よくなかったのかな。わからなくてわたしの脳味噌はぐるぐる回って回って倒れそうになった。わたしは結局何がしたいんだ、サイを困らせたいのか、ううん、違うだろ、わたしはサイに幸せになってほしいのだ。


「シン、兄さんの名前」


ちらりとサイの横顔を盗み見ると彼は目を細めて笑っていた。無理してるようには見えない、そう思うとわたしはうようよとみっともなく視線を泳がせてだんだん気持ち悪くなってきた。「あ、うん、そう」情けない返事を返すとわたしは立ち上がって、そのまま背を向けて来た道を戻っていった。逃げ、た。感情が戻ったせいでサイが悲しむことはないみたいだ。それはわたしに安堵と切なさを与えた。サイの横顔が脳裏に焼き付いて消えない。