人を巻き込むんじゃねえと足蹴にされたのを根に持っているのでデイダラには何も相談しない。ぐずぐず鼻を赤くするわたしは頭のおかしな意地を張って、部屋の鍵をかけて籠城作戦に出た。扉越しのイタチの事務的な声かけを一蹴し、借金取りの如く激しい飛段のドアドンに応じず、小南の気遣いに心を痛めながら、やっぱり鼻を真っ赤にさせてほっといてと、鼻声で言い返す。頭がどうかしてる。普段のわたしだったらこんなことしない。わたしは誇り高きS級犯罪者集団の良心だ。わたしが生まれの里で何をしたか、聞きたければ教えてやるよ。どうかしてたらここまで逃げ延びれなかったでしょう。ああでも正常な思考回路だったら、犯罪なんて犯さないのかなあ。追い忍を華麗に巻く自分の見事な判断能力を讃えるように走り抜けてきたわたしはここにきて、何もかもに自信を失っていた。


「デイダラの起爆粘土食って自死とは。おまえもとうとう気が触れたんだな」


目の前で横たわる男が何食わぬ顔でのたまう。さっきまで物言わぬ人形となっていた彼はぎこちない動きで起き上がると、片膝を立ててあぐらをかいた。足癖が悪いのは生前、誠に人間だった頃の名残だろうか。剥き出しの核を見てなんとなく思う。扉を背に膝を抱えてうずくまるわたしと向き合って、ばかだな、って顔で小首を傾げる。


「死んでない」
「死のうとしたんだろ」
「なんでサソリ知ってるの。死んでたのに」
「死んでねえよ」
「死んだと思ったから死のうと思ったのに」
「それは残念だったな」


残念だった。実に残念だ。外で任務中動かなくなったサソリを死に物狂いでこの部屋に運んでずっとそばについてた。人傀儡なんて全然わからないからサソリのこの状態がどういう意味を示してるのかまるでわからなかった。死んだ、死んだ?破滅的な言葉しか出てこなくて、周りの人たちは決定的なことを言わなかったのに誰よりもわたしがその可能性を危惧していた。十二時間経って状況が変わらなかったからデイダラに起爆粘土を持ってきてもらって一思いに噛みついた。妙な食感と苦味に吐きそうになった。結局、びっくりしたデイダラに手を突っ込まれ、白いそれらはすべて吐き出してしまったけれど。「おま、なに…?!」慌てる彼はわたしが咳き込みながら土遁の印を真似たら察したらしく、人を巻き込むんじゃねえと蹴り飛ばした。それからわたしの身ぐるみを剥いで忍具を全部取り上げた。頭のおかしくなったわたしは泣きながら出てけと追い出し閉め切って籠城。そんな狂気じみた一連の流れを、サソリは知っていたらしい。


「おまえ自分で暁の良心とか言ってんだから、もっと責任持てよ」
「サソリがいないなら意味ないもん」
「一番死んだ死んだ言ってたやつが何を」


やっぱりばかにしたように肩をすくめる。それからそばに乱雑に放り投げてあった外套を羽織る。核は見えなくなる。今回の件でわかったことは、わたしにはサソリの死が見えないということだった。あの核が生命線であることは存じているけれど、それが綺麗に残っている状態で、今回みたいなことが起きたとき、サソリが生きているのか死んでいるのかわからない。クナイでツンとつついて、核をこうされたら死ぬかもな、と皮肉っぽく笑った彼は覚えている。それ以外で死なないのだとしたら、彼は綺麗な死を迎えられない。

怖い。サソリが死んだなら一刻も早くあとを追いたかった。正直判断が遅かったと思う。サソリがいない絶望を味わってしまった。サソリのきれいなしたいを目の前に迅速な判断で自害するべきだった。


「わたしを殺す余裕を持って死んでください」
「くだらねえ。おまえいつからそんななったよ」
「わかんない…」


顔を膝に埋めたら涙が零れた。いつからサソリがいないと死にたくなったんだろう。わたし暁の良心なのに。おかしい。サソリをすきになってからおかしくなった。いつからかなんてわかんない。


「仕方ねえからとっておきの毒で殺してやるよ」


顔を上げる。前髪の影から覗く双眸がわたしを射抜いていた。作り物の口元がニヒルに笑っている。ずずっと鼻をすすると「まともそうなツラしやがって」と目を細められた。

サソリは綺麗に死ねないのに、わたしは綺麗に死ぬらしい。一思いに心臓を刺してくれても嬉しいのに。