同じベッドで目が覚める。夢みたいなことをしている と思う。


 横になったまま首をひねり南向きの窓へ目をやる。落ち着いたクリーム色のカーテンの隙間から、陽の光が差し込んでいた。夜、面倒臭くていつもレースカーテンしか閉めないでいるわたしの部屋に入るなり、「危ないじゃない」と言って真っ先に閉めた加古ちゃんを思い出した。意外にも心配性らしい彼女は磨りガラス越しに向かいのマンションから覗かれる危険でも察知したのだろうか。加古ちゃんがいなかったら閉めないと思うから、毎日閉めに来てほしいなあ、と零したら、くるっと振り向いて、よろこんでと微笑んでくれた。わたしの彼女。

 放り出された左手がぴくっと動く。隣の気配に気がついた。首を反対側に向き直すと、昨日一緒のベッドで寝た彼女の姿が見えなかった。あれ、とまだぼんやりしてる頭で不思議に思っていると、「起きた?」足先の方向から声が聞こえてきた。すぐに視界に彼女が戻ってくる。どうやら先に起きてたみたいだ。充電してた携帯でも確認してたのかもしれない。おはようと言うと、くすくす笑いながら同じように返してくれる。やっぱり夢みたいだ。
 ベッドサイドに腰かけた加古ちゃんは上体をひねって半身になり、わたしの左手へ右手を伸ばした。加古ちゃんの長い指が自分のそれと絡むのを眺めながら、彼女の手が少しだけ暖かいと思う。


「加古ちゃん、ちゃんと寝れた?」
「ええ。ちゃんがいたからよく眠れたわ」


 加古ちゃんは上機嫌みたいににこにこと笑顔を浮かべている。ついでに寝起きも良かったみたいだ。昨日の夜、電気を消してお布団に入ったあと少しおしゃべりをしてたけど、気が付いたら寝てたから多分わたしが先に寝付いたと思う。わたしもぐっすりよく眠れた。いつもより充実した睡眠だったようにも思う。しかしそれはすきな人としてはどうなのだろう。緊張感とかあったほうがいいのでは。少し考えたけど、わたしと加古ちゃんの相性がとても良いということしかわからなかった。

 昨日は土曜日で、二人とも防衛任務で夜まで働いていた。特に加古ちゃんは戦闘員なのでわたしよりもたくさん疲れただろう。任務が終わったらお泊まりしようっていうのは先週した約束で、待ち合わせのラウンジに行くと先に来ていた加古ちゃんに笑顔で手を振られた。「お泊まりすごく楽しみね」基地を出てわたしの家まで歩く道中も、彼女は少しも疲れを見せず大きめのバッグを肩に提げながらにこにこと笑っていた。「お風呂先に入っていいからね」と言うと、ちょっと目を丸くしたあと、ありがとうと口角を上げた。

 加古ちゃんは友達だった頃から美人だと思ってたけど、それだけじゃなくて、わたしを待つ姿がかっこよくて、手を振る笑顔は可愛くて、疲れを見せまいと気遣いができて、お言葉にはちゃんと甘えてくれる、よく出来た女の子だというのは恋人になってから知った。そんな加古ちゃんにメロメロなわたしは、日頃から可能な限り彼女を独占しているわけだ。絡んだ指と指を眺めながら、どきどきと心音が高鳴るのを感じる。


「こんなに加古ちゃんをひとりじめしてたら各方面から怒られそう」


 加古ちゃんオーラあるからどこにいても人目を惹くんだよなあ。どこかのセレブかと思ったら、そんなことなかったの、地味に驚いたくらいだよ。大学でも結構声かけられること多いし、その度華麗にお断りする加古ちゃんはとてもかっこいい。そんな彼女と両想いなんだよ。


「わたしは怒られてもちゃんを独占するわ」


 加古ちゃんを見上げると彼女はにこにこ笑顔を浮かべていた。それはとっても嬉しい言葉だ。「やったあ」加古ちゃんとは大違いなだらしない笑みを浮かべてしまう。ぜひそうしてほしい、ぜひとも、わたしをあなたのものにしてほしい。
 加古ちゃんが、身体をひねった体勢のまま、ぐっと顔を近づけた。絡めてた指を離してわたしの頬に添える。そうしてわたしの口にちゅーをした。やわらかいくちびるだ、とぼんやり思った。それから、かーっと赤くなる。


「お、おうじさまみたいなことするね…」
「本当?一生わたしのことすきでいてくれる?」


 そう笑う加古ちゃんが乙女みたいで可愛かった。かっこよかったり可愛かったりするの、すごいよなあ。もちろんだよって言えないくらいどきどきしてるから、初めてのお泊りのご感想を聞くのはもう少しあとでいいかなあ。