今世紀最大の大発見をしてしまったかもしれない。携帯の画面に映る人物を目にしたわたしは思わず口を押さえて、辺りを見回すほどだった。

とりあえず誰も見てない。よし、と深呼吸して、もう一度画像と向き合う。その写真は和葉ちゃんから送られてきたメールの添付画像で、彼女の幼なじみである服部くんに関するやりとりをしていた流れで送ってもらったものだった。例の「西の服部、東の工藤」という謳い文句について、同じ東の探偵である白馬くんを推す身として詳しく聞きたかったのだ。そう名指されるほどの推理力を持つ高校生探偵であるらしい工藤くんとやらはいかほどの実力なのか。白馬くんは主にキッド関係であれ新聞で目にするのに、工藤くんは未だに見たことがない。といっても工藤新一くんという存在に意識を向けたのはこないだ、記憶喪失になったときメールフォルダを遡っていた際、一度だけ交わした蘭ちゃんとのやりとりを見たことをあとで思い出してからなんだけども。[これが最初に二人が取り上げられた雑誌でなー、まあ取材は別々に撮ってん、面識はなかったみたいなんやけど]そうメールに書かれた文章を和葉ちゃんの声で再生しながら上へ指を泳がす。

[右のが工藤くんやで!]そうして表れた人物画像に、わたしは最初、既視感に襲われた。…この人どっかで見たことある?首を傾げ、それからいろんな角度で画面を見て、(もちろん3Dでもないただの画像が変わるわけがないのだけども)目や口を隠したりして試してみた。
顔半分と髪を隠してみる。すると、途端、カッと脳内が光った。気がした。まるで難問を解く手順が思いついたときみたいに、わたしは内心大興奮だったのだ。大発見!どうしよう!


工藤くんめっちゃ黒羽くんに似てる!!


携帯の画面を消してパタンと伏せる。それからハッとして、隣の席の紅子ちゃんに振り向いた。今は十分間の休み時間で、次の授業も教室だったので各々おしゃべりをしたり教科書をロッカーへ取りに行ったり、トイレに席を立ったりしていた。
紅子ちゃんは頬杖をついて三限の数学の宿題をやっているようだった。今終わったばっかなのに偉いなあ、そして邪魔してごめんね。


「紅子ちゃん、黒羽くんって兄弟いる?」
「兄弟?いないんじゃないかしら…?」
「そっかー…そうだよね」


わたしもそんな話耳にしたことないし、実際黒羽くんて一人っ子っぽいものね。きょとんと目を丸くしてわたしを覗き込む紅子ちゃんには手を振ってごまかす。
だいたい、黒羽と工藤で苗字が違う。黒羽くんの両親は離婚をしてないはずだから別居中の双子という説は無理がある気がする。(工藤くんも高校二年生だから血のつながりがあるとするなら双子だ)ああでも、何か複雑な事情があるのかも。気になるな。
「あら、電子辞書が…」机の中を覗いた紅子ちゃんが席を立って行ったのをなんとなく目で追って、その視線の途中に入ってくる黒羽くんで止まった。顔を伏せているので寝てるのかもしれない。
……隠してるなら、触れてほしくないのかも。でも、知りたいな。


「黒羽くん」


机を指でトントンと叩くと、ワンテンポ空けて黒羽くんがのっそりと顔を上げた。半開きの目は数学の授業から熟睡中だったことを物語っている。まだ休み時間五分もあるのに起こしてごめんよ。


「黒羽くんて一人っ子?」
「ああ…?そうだけど」
「ふ、双子の兄弟がいるとか」
「はあ?いねーよ」
「……」
「なんだよンな真面目なツラして」


わたしの真剣な気持ちが顔に出てたらしく黒羽くんは若干引き気味だ。わたしの方はデリケートな話題だと思ったからなのだけど、黒羽くんにはそんな様子は見受けられないので、もしかしたら本当に杞憂だったのかもしれない。だとしたらこれは。


「ドッペルゲンガー…」
「はあ?」
「黒羽くん見て!…こっちの人、工藤新一くんっていうんだけど、黒羽くんにそっくりじゃない?!」


急いで携帯のロックを外し、消す直前まで睨めっこしていた画面をずいっと見せる。右に映る彼を指差して迫ると、黒羽くんは一度身を引いたあと、顔を近づけてじっくり向き合ってくれた。


「工藤新一ィ…?知らねーな」
「白馬くんと同じ高校生探偵らしいよ!このさ、後ろの髪の毛隠すと、黒羽くんになる!」
「……」


黒羽くんはじっと睨むように、もしくは品定めするかのように吟味したのち、「似てねーよ」あっけらかんと吐き捨てた。


「…え!ドッペルゲンガー…」
「全然似てねーっての」
「そうかなあー…」


画像を自分で見直してみるけれど、そっくりだと思うのだ。この二人並んだら瓜二つの双子だと思っても仕方ないと思う。いや、ドッペルゲンガーだったら黒羽くん死んじゃうから並んじゃダメだ!首を振る代わりにぎゅっと口をつぐむ。本当に似てる、よなあ…?でも本人の黒羽くんが似てないって言うことは、そこまでじゃないのかな。んん、そう言われると、確かに。


「確かに工藤くんの方が賢そう」
「おいコラ」


黒羽くんの引きつった笑いには「黒羽くんはマジックがうまい!」と返してイスに正しい向きで座り直した。「オメー賢そうの次に言われたらマジック馬鹿にされてるみてーじゃねーか!」と後ろで怒られたのでそんなつもりで言ったんじゃないよとだけ言って机に手を入れた。次の古典の授業は電子辞書が必須だ。教科書とノートとセットでそれを机上に置き、あとは先生が来るのを待つのみとなった。黒羽くんがどんな顔をしてるのかは知らない。
教室の入り口から、紅子ちゃんと青子ちゃんが一緒に戻って来たらしい。黒羽くんとは反対の向きに振り向く。ああそうだ、和葉ちゃんに返信しないと。……えっと…。


[頭よさそうな人だね!蘭ちゃんといる工藤くん見てみたいなー]


メールに対する返事になってないかもしれないけど、いっか。送信完了の文字を確認し、制服のポケットにしまう。工藤くん、いつか白馬くんと一緒に捜査することがあったら楽しそうだなあ。その姿を想像して、にやけてしまう口を人知れず隠すのであった。