年度末の試験は明日の古典と英語で終わる。今日までは部活停止期間のため、午前で終わった試験のあとは時間が空いていた。それは学校側による、すぐに帰って学習に充てろとの意図であるので、もちろんのん気に遊ぶことは方針上も生徒の精神的余裕の面からも許されない。なので俺としてもすぐに帰宅したい。のだが。


「遅い」
「あはは…」


はっきり不満の声を漏らすと隣の席のが苦笑いをする。さっさと帰りの支度を済ませホームルームが終わったB組の教室は既に俺としかいなかった。二人分の虚しい声が響く。
なぜと二人でいつまでもここに居座っているのかというと、今日の放課後ファミレスで昼飯を食いながら勉強をするため他の三人を待っているからである。鬼道は部の学年代表として顧問に呼ばれてるらしいからまだ許せるが、D組の奴らは一体何に時間を食っているんだ。手持ち無沙汰で古典の教科書を広げてみたが特に頭には入っていない。教師から宣告されたテスト形式的にこれは由々しき事態なのだが、だから、早く勉強しようといってるんだ。俺の救世主鬼道を交えて。
隣の席に座るを見遣る。彼女も古典の教科書を開いて目で追っているようだ。国語が得意と聞いたことがあるが、古典もやはりその範疇なのだろうか。中学からの仲だしクラスでも一番話す女子であることは間違いないが、いかんせんお互いに対して最低限の興味しかないからか、今でも知らないことは多かった。

彼女といえばこの一年、中学での不動馬鹿のレッテルに恥じない生き様を見せつけていたと思う。その証拠に、クラスが違うにもかかわらずと不動の仲は各クラスで噂されているし、しかし付き合ってはいないというのが確認されてからは不気味にも二人の様子を見る生徒を度々目撃する。噂ではが不動を追い掛けて帝南に来たという話も広まっているらしい。二人の志望校はたまたま被っただけだぞと訂正してやってもいいが、直前期ののモチベーションは100%不動だったためあながち間違ってないなと思いそれは一度もしていない(ちなみに俺もクラス内でと仲がいいという理由で噂が流れかけたらしいがそれは全力で否定しておいた)。



「うん?」
「おまえ彼氏とか作らないのか」
「えーできないよ」


取り立てた長所もなければ目に付く短所もない(と俺は評価している)は、出会いという名の機会さえあれば彼氏ができてもおかしくはないと思っている。そう、機会があればだ。本人にその気がないのも大概問題だが、それに加えて第三者による強大な妨害によって彼女の出会いというものが最高に制限されているのである。第三者とはもちろん不動だ。奴という強烈な存在のせいで周りの男たちはを敬遠せざるを得ないだろう。
それは彼女にとってもったいないと思うかと聞かれたら、まあ、べつにって感じだが。


「佐久間くんは?モテそう」
「どうだろうな」


適当に相槌をする。俺だってべつに、そういう浮いた話がないわけでもないが、なんというかご縁がなかったということで、的な…まあ今は俺のことはいいから。「…不動くんもモテるかな」そうそう。


「あいつがモテるのは嫌か?」
「わたしから遠くなっちゃうなら嫌」


そうかそうか、素直だな。恥と思っていない彼女はその気持ちを包み隠さず話してくれる。俺からしたら不動なんて、割とかなりどうでもいい奴なんだが、にとってはなくてはならない大事な存在らしい。髪型はこの一年でまともになったけど目つきは悪いし口調も荒いし、どう考えてもそんな希少価値のある人間ではないと思うのだが。まあそれは、のみぞ知るってやつか。あべこべだけれど妙にハマる二人を見て楽しいと思うのは高校に入っても同じだった。頬杖をつき、呆れたように溜め息をつく。


「来年は一緒のクラスになれるといいな」
「うん!」


元気よく頷く彼女に笑い返したところで、廊下から三つの足音が聞こえてきた。




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