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(恋のうた/スピッツ)
ふとしたときにその日見た夢を思い出すことがある。今日のそれはベッドに座りながらのんびりワイシャツのボタンを閉じていたときで、フラッシュバックのように映像が思い出されたのだった。 久し振りに夢にでてきた。所詮俺の妄想でしかない彼女だけれど愛しいと思うのは同じで、同時に早く顔が見たいと思う。土日を挟んだだけでこんな、夢にまで見ちゃうなんてなあ。自分が情けなく思える。いっそ思い出さなければ、と思うけれどやっぱりあの子であることには変わりなく、忘れないよう微かに残る映像を頭で何度も何度もなぞった。だって、もったいないもんな。 二学年に上がってからインターハイ予選へ向けた練習が本格化し、部活以外の自由時間は思うように取れないでいた。それでも朝練が終われば学生の本業である勉強をしに教室に行くので、とりあえずは良しとしている。青根とA組へ向かっていると入り口付近に立っている女子生徒二人が見え、それが誰だかわかると自然と歩幅が大きくなった。 「あ、堅治くん!と、青根くん、おはよー」 俺が声をかける前に気付いてくれるのが嬉しい。入り口を封鎖しない位置で立ち止まり、同じように挨拶を返す。俺の隣で青根がぺこっとお辞儀をしたのを視界の隅で捉えていると、と向かい合って話していた先輩はにこりと笑い「それじゃあわたしは戻るね」と言って三年の教室に戻って行った。それに俺と青根が軽く会釈をし、は手を振って見送る。このやりとりも慣れたものだ。 青根が教室に入って行くのには続かず、俺はと向かい合ったまま見下ろす。朝のホームルームぎりぎりの時間は俺たちのように部活が終わったあと来る奴らばかりなので廊下を歩く人口はそんなに多くない。彼女はきょとんと俺を見上げ、それからふにゃりと笑った。 「朝練お疲れさま」 「……ん。ありがと」 口がにやけるのを抑えるので必死だ。堪えるのに眉間にシワを寄せるから変な顔になってる気がする。多分頬も赤い。見てるこっちに幸せを分けるような彼女の笑顔はこの一年間ずっと見ているが、ちっとも飽きる気配はなかった。今年も同じクラスでよかった、この子と付き合えて本当によかった。素直に思う。 「明日、午後練ないからさ。一緒に帰ろうね」 「うん!」 大きく頷いたの手をたまらず軽く握る。すると彼女の肩がびくっと跳ねた。まだ慣れないんだな。照れた彼女が俯いたのをいいことに思いっきりにやけてやる。A組は一番端の教室だし、俺も下を向いているから誰にもバレないだろう。が見上げさえしなければ誰に見られることもないのだ。 「…あのね、仕方ないことなんだけど、最近堅治くん忙しそうであんまり話せないの、少し寂しかったよ」 「……」 撤回しよう、夢なんかじゃ勝てない。本物のが一番愛しい。 |