(楓/スピッツ)


涙がこぼれた。俺じゃない、目の前のが泣いたのだ。とっさに頭を撫でようとして、とまる。……俺はもうに触っちゃだめなんだ。なんたって泣かせたのは俺自身だ。君が涙もろいことは知っていたのに。こらえてぎゅっと拳を作り、何事もなかったように引っ込める。俺と目を合わせていた彼女にはばれてしまっただろう、かっこつかないなあ、思いながら苦笑いをしてみせる。本当は苦笑いなんてする心持ちではなかったけれど、彼女がそうさせるのだ。いいや、ごめんね、君のせいにしたいわけじゃないんだけれど。
赤くさせた鼻をすすり、こぼれた涙を乱暴に拭うはきっと、俺のことをまだすきでいてくれているんだろう。それはとても嬉しいことだったけれど、でももう離れ離れにならないといけないのだ。今までありがとう、は、もう喉まできてるんだけど、声になってくれないや。ねえ、悲しいよ。


「りょうたくん…」


ああ、ほら、俺、が俺の名前を呼ぶ声がすきだった。その声に何度救われただろうか。もう触れることはできないけれど、それだけは俺にちょうだい。俺、それで頑張れる気がするから。


「俺がの大事な時間食い潰してたの、知ってた?」


情けない声しか出ないなあ。ゆるゆると首を横に振る彼女に目を細める。きっとそれは、知らなかったって意味じゃなくて、俺の言葉を否定しているんだろう。は俺がその優しさに漬け込んでずっと一緒にいたことを知らないし、もし知ってもまた否定するんだろうな。それを仇で返すように勝手にさよならするんだ、とんだクソやろうだろう、だからもっと怒ってくれていいんだよ。俺のために流す涙なんてもったいない。


「涼太くん、……今までありがとう…」
「…それは、こっちの台詞っスよ」


震える声しか出せない。俺まで泣きそうだ。ぎゅっと眉間に皺を寄せ、目を閉じる。と離れてつらいのはこれからなのに、こんなんで大丈夫かな。きっと俺はこのままなのにね。


「ありがとう」


君と叶えたいことがあったよ。さようなら。