(Swing of lie/YUI)


帰ろっか?と首を傾げる彼の笑顔に隠された本音がわかる気がした。いつからこんな風になってしまったんだっけ。彼は見かけによらず思慮深いところがあるから、もしかしたら最初から思うところがあったのかもしれない。
悪いことを、したなあと思う。わたしといる間、君にとっては時間を無駄にしたことだろう、とかいって遠回しに自分を被害者たらしめる思考回路が実に残念だ。加害者のくせして何を言うか。彼にこんな顔させてしまうのは誰のせいだと思っているのか。考えてまた傷つく堂々めぐりだ。

わたしのせいで彼の表情が歪んだのを見たときの感覚を早く忘れたいのに、それ以来何度も上書きされるからなかなか記憶が薄れてくれない。今だってほらね、顔を背ける間際に見えてしまう。


「ねえ」


もう袖を引っ張る勇気はなかった。呼び止めるには声を掛けるだけで精一杯だ。臆病、わたしがこんなになってしまったのもいつからだろうか。前はちゃんと名前を呼んでいたはずなのに、それで隣を歩くこの人は目を細めて笑って、なに?って言ってわたしに顔を向けてくれたのに。


「なに?」


本当はそうだ、わたしから言ってあげないといけない。嫌な奴じゃない君はあからさまな態度は取らないね。だからわたしはとぼけて、言うべき台詞をシチューと一緒にかき混ぜて飲み込んでしまうのだ。ああ間違えて飲んじゃった、仕方ないねじゃあまた今度。笑顔でごちそうさまをする。でもすぐにまた「さようならお別れしましょう」が目の前に現れるから、わたしはもうお腹いっぱいで、すっかり気分ごと重くなっているのだ。
高尾くんにあげてしまったらそれで終わりだけれど、それは気分が軽くなるのとイコールではないとわかってる。前と同じように、けれど確実に違う彼の笑顔に曖昧に返して、ごめんなんでもないと呟く。高尾くんは何か言いたげにわたしを見て、それからすぐに前を向いた。

…この手に伸ばしたらどうかなるだろうか。もうこの人に触れる権利もないと、わかっているけれど。ちらりと彼を見上げてみる。彼の口は言ってないのに真っ直ぐ前しか見ないその横顔で何を思っているのか読み取れてしまう。
ほら首を、しめるならしめていいよ。待ちながら、その最後の最後までわたしからは絶対言わないで、ほんのわずかの希望だけ持っているのだ。