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(Beautiful World/宇多田ヒカル)
朝から敷いたままの布団にごろんと転がる。休みの日は何もする気が起きないから一日中こんな感じだ。いいや多分、仕事の日もこんな感じだ。最近になってなんとか中忍に上がることができたわたしは、けれど比例するように高くなった任務の難易度に早くもこてんぱんにされて毎日が憂鬱だった。まだアカデミー時代のスリーマンセルで動くこともあるけれどそうじゃないときの足の引っ張り具合が半端じゃない。自覚してるから、周りの人もそんな目で見ないでほしかった。 まくらに突っ伏して深いため息を吐く。お腹痛い。中忍でこれなのに、上忍になったりなんかした日にはいよいよ鬱病にかかるだろう。思っていたほど自分が駄目な人間で、思い描いていたほど立派になれていない。嫌でも突きつけられる、これが現実だ。 チャイムが鳴り、しばらくするとドアが開く音が聞こえた。鍵は閉まっていたはずだからこの時点で泥棒でもない限り人物は絞られる。ゆっくりと起き上がり、布団の上で座り込んだまま訪問者を待つ。わずかに聞こえる足音の末、入り口から顔を覗かせたのはやっぱり、予想していた人だった。 「相変わらず汚ねえ部屋だな」 軽口を叩くサソリも相変わらずだ、思ったけれど口が重くて動かなかった。じっと見上げるだけのわたしにサソリは眉をひそめ、それからやはり静かに足音をたてながら傍に近付いてきた。床に散乱した物の中から座布団を拾い上げ、布団の近くに置いて座る。わたしより背が高いはずのサソリとは座るとあまり変わらなくなるのだ。足が長いんだろう、と思いながら沈黙している。サソリは何か用があったのだろうか。それとも、昔から駄目なわたしをサソリはさり気なくも気に掛けてくれていたから、今日も同じように様子を見に来てくれたのかもしれない。 でも、もしかしたら何か言いたいことがあるのかも。 つらい毎日の中で、それでも頑張ろうと思えるのはサソリがいるからだ。サソリがいなかったらこんなに頑張れないし、多分下忍のままでいいやと思っていた。そもそも忍を志してさえいなかったかもしれない。お父さんとお母さんが忍だったからと追うようにアカデミーに入り、才能のあったサソリはすぐに卒業し里の重要な任務を任されるようになった。それをわたしは必死で追い掛けていたのだ。傀儡使いの才能はまるでなかったから早々に諦めたけれど、置いていかれないように、見捨てられないように、忘れられないように、死に物狂いで忍の道を走った。けれど。 サソリを見ると、スッと目を逸らされた。心臓が嫌に脈打つ。 最近サソリが変なのだ。様子がおかしい。はっきりとうまくは説明できないけれど、漠然と、違和感を感じていた。そう、サソリは何か企んでいるような、隠してて、今にも消えちゃいそうな、…………。 「さ、最近調子どう?」 「……」 「元気にしてるなら、べつにいいけど…」 なんとか絞り出した声は震えていた。自分のそれは縋っているように聞こえた。目を伏せたサソリが何を考えているのかわからない。勘違いならいい。この嫌な予感が、漂う居心地の悪い空気が、全部わたしの勘違いなら、それがいい。 「…ね、サソリ、何か言いたいことがあるんじゃないの」 彼がふいに顔を上げる。大きく目を見開いたサソリが、堪えるように口を噤んだのを、わたしははっきりとこの目で見た。次の瞬間には、そんな様子は微塵も感じさせなくなっていたけれど。 「何もねえよ」 サソリが力なく笑う。これが最後だって思ってたなら、おまえはどうしてそれしか言ってくれなかったのだろう。 |