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四番隊総合詰所の一室で目が覚めたわたしがゆっくりと起き上がると、近くに座っていたらしい副隊長に気分はどうですかと尋ねられた。そちらに首をひねり上司の姿を確認するも、まだもやがかかったような思考はろくな返答も導き出せず、わたしは「元気です」と子どもみたいな返事をしてしまった。
それでも副隊長には問題なかったらしく、そうですか、と短く呟いたあと四番隊の方呼んできますねと席を立ち病室を出て行った。相変わらず落ち着いた人だなあ。だんだんと晴れていく脳内は昨日のことを思い出していた。脇腹をさする。鈍い痛みが走った。 言った通りすぐに副隊長は四番隊の人を連れてきて、その人が問診をし退室していくまで彼は無言だった。二人きりになっても何か話そうとする雰囲気はなく、何か用件があるからいたのかと思っていただけに不思議だった。ちらりと見上げると副隊長と目が合い、その表情は至って冷静な、いつもの彼であった。目が合っては逸らすわけにもいかず、わたしはやや緊張気味に先ほどの疑問を投げ掛けた。 「な、何か用件でもあったのでしょうか」 「用件?特にありませんよ」 「え、…え、じゃあどうして…」 「……」 ふっと目を伏せた副隊長に、ここにきて初めての違和感を覚えた。彼は普段から白のハイネックを死覇装の下に着込み、薄めの手甲はとても使い勝手がいいらしく布地は腕を覆い袂の奥まで伸びている。死覇装の着こなしは人それぞれだけれど、あまり肌を露出させないそのスタイルは割と他に類を見ないので、前に寒がりなんですか?と聞いたら肯定と「そのためだけじゃないんですけどね」と濁した返事が返ってきたことを覚えている。多分さっきも言った通り、肌の露出を好まないだけなんだろうと、そのとき思った。今もきっちり身に付けている手甲なんて、任務以外で役に立つとしたらそれくらいしか考えられない。 副隊長はわたしが何をしてもだいたいは水のように受け流す。鬱陶しがられているとかではなく、観月はじめという男は頭が良く冷静で、何事にも動じない印象だったのだ。わたしの中のそれは長い間ずっと変わらずにいる。 だからこそ。昨日のことを思い起こす。あんな表情を見せた彼が、とても意外で、脳裏に焼き付いていた。伏せた彼の目が開く。視線が合った。 「自分が負傷させた部下に付き添うのは当たり前でしょう」 あなたは覚えていないかもしれませんが。そう続けた副隊長に、一瞬にして背筋がスッとなった。自嘲気味に笑う彼はそのことを気に病んでいるのだ。昨日、同行した任務で、副隊長はわたしに斬魄刀を向けた。もちろん理由はちゃんとあった。寄生型の虚に乗っ取られそうになったわたしからそれを追い出すために腹を刺したのだ。あの虚はわたしも知っていた。乗っ取られたときの対処法ももちろん。副隊長は、その通りのことをしただけなのだ。なのに今、彼は自責の念に駆られているようだった。 「観月副隊長、助けてくださって、ありがとうございました」 「…お礼を言われるようなことは何もしていませんよ」 「そんなことないです。副隊長が助けてくれなかったらわたし…」 完全に乗っ取られてからでは救済は難しい。副隊長の迅速な判断のおかげで、わたしは助かったのだ。覚えている。突然虚に飲み込まれる感覚。副隊長の珍しく焦った表情。それからすぐ、腹に焼けるような感覚。思い出せる。 「そうですね。…だからこそ、今日あなたが目覚めてくれて、心底ほっとしているんですよ」 抱きとめられ、視界には今にも泣きそうな彼が映っていた。消え入る意識の中、彼の姿だけはしっかりと覚えていたのだ。 |