日付が変わった。時間を忘れ新薬開発に没頭し今日も一度も隊員の前に姿を現さなかった隊長は、かれこれ三日は隊首室に籠っていた。いよいよ生死が心配になってくる頃だが、十二番隊隊長兼技術開発局局長のサソリは殺されても死なないような人間なのでこの手の心配はだいたい杞憂に終わる。引きこもりの最高記録は三日で死に至らしめる毒薬開発にかけた七日間なので最悪それまで死なないことは実証されているのだ。他隊はとっくのとうに業務を終えもう就寝もしているであろう時間にも関わらず副隊長のわたしがなぜまだこうして技術開発局の一室で彼が出てくるのを待っているのかというと、ただ単に今晩、隊長とわたしで任務があるからである。しかし、朝に一応ふすま越しにその旨は伝えたものの、返事はなかったのでもしかしたら気付いていないのかもしれない。

そうだったら困る。一人で任務を片付けるという最悪の事態を懸念したわたしは、ソファから立ち上がりもう一度隊首室へ足を運んだのだった。技術開発局から三分ほどのそこに着き、ふすまを叩いて声を掛ける。


「隊長、です。あと一時間で出立の時間ですよ、わかってますか?」


それにもやはり返事は来ず、いっそ思い切ってこれを開けてしまえたらとは思いつつ以前それをやったとき半殺しの目に遭ったので勇気はもう微塵も湧いてこなかった。しかし、困るなあ。わたし一人でなんて行けるわけがない。三席くんが確かまだ何か実験していたから、隊長は置いてもう頼もうかなあ。思いながらまた元いた部屋へ戻っていった。


「遅え。どこほっつき歩いてたんだよ」


しかし何故かそこにいた隊長にはあいた口が塞がらなかった。こちらの心配を気にも留めずいけしゃあしゃあとのたまう彼にある程度の殺意は湧いたものの、上司である隊長にまさか行動に移すことはできず、はああと深い溜め息をついてやり過ごした。いつ出てきたかはわからないけれど、よかった。任務の話は聞いていたみたいだ。急須で緑茶を淹れている隊長に「おまえも飲むか?」と尋ねられたところでハッとした。


「いやっ、自分でやります!」
「遠慮しなくていいぜ。心配かけた礼だ」


いつも悪いな。そう言いながら渡してくれた湯のみを、わたしはだいぶ感動しながら受け取った。隊長がそんなことを気にしてくれていたなんて。軽く涙目になりながらお礼を言い、ありがたく一口飲んだ。

瞬間、ぶっ倒れた。自分でも何が起こったのかわからず瞠目する。身体に力が入らない。手足がびりびりする。なんだ、これ、は。……まさか。心当たりにおそるおそる見上げると、隊長はあれ、と言いたげに褐色の目を瞬かせていた。


「B液の量が多かったか…?」
「たい、ちょう…」
「霊力増強の薬つくってたんだよ。このあと任務だっつーからおまえのために急いだんだがな…失敗か」
「う、動けないんですけど…」
「出立までまだ一時間ある。それまでには痺れも取れるだろうから安心しろ」


しゃがんでみせた隊長の赤い髪が揺れる。わたしのためとか言っておいて、本音はモルモット要員でしかないのだ。伸びた前髪の奥に潜む眼球は至極楽しげで、わたしはひどい痺れに涙目になりながらもそれを捉えてしまうのだった。