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今日までの書類や取り急ぎの案件は全て片付いた。まだ午後三時を回ったところで、今日は早上がりできるかなあとにこにこしていたのだ。おやつの時間なのでお昼に買ってきた胡麻だれ団子を食べようと席を立つと同時に、少し離れたところで事務作業をしていた隊長に名前を呼ばれた。お茶でも欲しいのだろうか。言われなくても団子は隊長の分もあるし、お茶もそれと一緒に出すつもりだったのに。「なに?」顔を向けると頬杖をついていた隊長は一枚の書類をそれの山に乗せ、目つきの悪い視線をわたしに向けた。
「蛆虫の巣行くぞ」 「え……嫌だ」 素直に返答する。当然、隊長の表情は険しくなった。 二番隊隊長を務める花宮真は同時に隠密機動総司令官でもあり、そして彼はその中で五つに分かれている部隊の一つである刑軍の統括軍団長も兼任していた。斬拳走鬼に長け軍団長に伝わる瞬閧をいとも簡単に身につけた彼は歴代頭首の中でも飛び抜けて高い能力の死神として有名らしい。ちなみにこれは近しい人にしか言ってないらしいが、秘伝技とも言えるこの瞬閧、花宮隊長はものすごく嫌っているのだそうだ。修得こそしたもののどんなに手強い虚でも白打を応用するまでで絶対に使おうとしない。「袖吹っ飛ぶとかキモすぎんだろ」などとのたまり死覇装や隊長羽織も袖のあるものを着ている。 そんな、あまり二番隊の特色に馴染まないかとも思われる花宮隊長だが、暗殺や処刑といった隠密機動特有の薄暗い面にはとても良く適合していて、わたしは血も涙もない彼のその性格はむしろ隠密機動でしか生かせないと密かに思っている。 花宮隊長のそういう能力の高さだとか要領の良さだとかは一応尊敬はしているのだが、いかんせん部下の扱いがひどい。 「嫌だじゃねえよ。隊長の言うことは聞きやがれクソが。つか上司には敬語使えっつってんだろ」 「だって…」 「口答えすんな。それでも檻理隊の副部隊長か」 ぎくりとする。二番隊副隊長であるわたしももちろん隠密機動に所属している身ではあるが、この座に就く前は別の部隊の一員だったのだ。諜報を主な仕事とする警邏隊として割と平和な日々を送っていたのに、二番隊副官昇進と同時に人事異動を強いられ、檻理隊の副部隊長に任命されてしまったのだ。なにせ、檻理隊の主な業務である罪人の投獄や監督でさえ気が滅入るのに、特別檻理なんて別の仕事があるものだから勘弁してほしい。護廷十三隊の危険分子を閉じ込めるのだ。そのための施設が、蛆虫の巣である。 危険分子の監視も檻理隊の仕事であるが、統括軍団長である隊長も内部の把握をするのは当然だろう。なるべく寄り付かないように逃げているこちらとしては、わたしの役職なんてどうでもいいから隊長一人で行ってくださいという気持ちである。危険分子と認定された彼らは閉じ込められているがゆえに凶暴であり、きっと隊長はそういう者の相手をわたしが苦手としているのを知っていて異動命令を出したに違いない。なんて愉快犯だ。 ガタリと隊長が席を立ち、わたしの横を通り抜けたと思ったら「行くぞ」首裏の襟を掴まれ引きずられた。痛い痛い!と反抗してももちろん聞き入れてもらえない。歩けますからとギブアップしてやっと離してもらえた。引っ張られた死覇装を直し、ジト目で彼の背中を睨む。生まれた瞬間から次期頭首として育てられていた彼だけれど、年が同じだったわたしたちは幼い頃こそ仲良しだったはずだ。なのにだんだんひん曲がっていった彼の性格によりわたしのパシリ体質が定着し、今や副隊長として都合よく隊長の手となり足となり働かされる毎日であった。 「鬼獄卒……」 「看守はてめえだろバァカ。あんま舐めたこと言ってっと蛆虫の巣に放り込むぞ」 冗談に聞こえない脅しにびびりながら、今日もわたしは隊長の言いなりである。「胡麻だれ団子あるんだけどなあ」「ハイハイ帰ってきたらな」適当にあしらう隊長に隠れて口を尖らせる。甘すぎるものを好まない君のために一番すきなみたらし団子を諦めたわたしの気持ちも少しくらい汲んでほしい。 |