(ピーターパン症候群/酒井まゆ)
見た目はごく普通の女の子が空を飛べたり物を浮かすことができ、日が出ていないときのみその能力が発揮できます。無意識に使ってしまうこともあります。家族は知っていますが周りには隠しているので、バレたら即引っ越し、という生活を繰り返しています。





俺の友達はただの女の子じゃなかった。彼女は空を飛べるらしい。


「………」


ちゃんは顔を真っ青にさせ正座で小さく縮こまっていた。昼休み、茶道部である俺の提案により畳の敷かれた作法室で向かい合って座っているわけだけれど、ここに誰かがいたら一方的に俺が責めているみたいに見えそうだ。べつにお点前の時間でもないし、正座が決まりなんてわけでもないのに律儀にその座り方をしているのはおそらく今の彼女の精神的余裕の無さが反映されていると思う。足痺れないのかな、立つとき辛そうだ。彼女に倣って俺も正座をしてしまったので、楽にしていいよと言っても聞かなそうだ。
冷や汗をかいているちゃんが心配だ。原因が俺だと思うと本当に申し訳なく思えてくる。


ちゃん、なにも取って食おうなんて思ってないから…」
「えっと、あの、昨日見たことは…」
「う、うん……ちゃん飛んでたね」


びくりと更に縮こまった彼女に、ああしまったと思う。口が滑った。
昨夜たまたま目撃した、彼女が空を飛んでいる光景はあまりに非現実的だった。自分の目を疑ったけれどしばらくしたあと空中のちゃんと目が合い、その彼女が酷く取り乱した様子でどこかへいなくなってしまったのを見て漠然と、あ、現実なんだ、と理解した。
俺は家に帰ったあとその出来事を誰に話すこともせずぐっすり眠ったのだけれど、どうやら相手はそうはいかなかったらしい。顔色が悪いのは何も立場の悪さだけじゃないだろう。…寝れなかったのかな。
ちゃんは一ヶ月前の転入生で、席が近かったのもあり割とすぐに親しい間柄となった。学校生活の中で彼女のことをいろいろ見てきたつもりだったが、しかしもちろん、空を飛べるなんて可能性にはまるで考え至らなかった。
自惚れやなんて滝夜叉丸のこと言えないかもしれないけれど、俺は一番に彼女に信頼されていたと思うのだ。その俺でさえ教えてもらえなかった、その推測だけで今彼女が言いたいことはわかる。


ちゃん、俺誰にも言ってないし、言うつもりもないよ」
「…!……ほ、ほんと?」


顔を上げ涙目の彼女にほっとして笑い掛ける。ほらね、正解だ。空が飛べるなんて、簡単に知られていい話じゃない。でもだからこそ、知れてよかったと思う。


「信用ないなあ。ほんとうだよ」
「あ、ありがとうタカ丸くん!」


わっと表情を明るくし手を掴んできたちゃんにううんと形だけの首を振る。お礼を言うのは俺の方だ。君と隠し事を共有できるのが嬉しい、なんて言ったら不謹慎だろうから、代わりに俺は笑顔で、絶対守るからねと心から誓うのだ。

いつか伝えたいこの気持ちは、君にはまだ秘密。