|
(僕の棺で晩餐を/草川為) 吸血鬼のお話です。基本不老ですがその中でも歳だったり故意だったりと何らかの理由で牙が折れると血が飲めなくなって死にます。日に弱く、銀も苦手。吸血鬼が噛んだ相手を吸血鬼にするには力が必要で、その上で噛んだ相手に自分の血を与えないといけないそうです。舞台設定は「僕の棺で晩餐を」内収録の「黄昏恋々」のパロディです。 日が沈んで結構な時間が経った頃、似合わないハイネックを着たサソリが突然家に押し掛けて来たものだから驚いた。何事かと問えば「吸血鬼になった」と、何でもなさそうに、下手したら転んだときの報告なんかよりもあっさりとそんなことを言いのけた。(しかし残念ながらサソリの転んだ報告を受けたことがないので想像の域を脱しないのだが)普段の日常生活では馴染みのないその単語に一瞬思案し、そのあとは何かの例えだろうか、と首を傾げた。随分派手そうで地味なジョークだ。 「嘘じゃねえよ、ほら」 ハイネックを下げ露わにした首筋には赤い点が二つ並んでいた。えっと思わず声が漏れる。それは映画などでよく見る、吸血鬼に噛まれたその痕にそっくりだったからだ。そして気がつく、彼の爪が異常に伸びていることに。昨日はそんな長くなかった。普通の人間が、一晩で何センチも伸びるはずがない。いよいよ表情をしかめざるを得ない事態になってきた。そんなわたしに気付いているのかいないのか、サソリはのん気に口を開き指なんかさしている。 「な。あとこれ、牙。すごくね?」 「…なんでそんな…」 「噛まれた」 それからサソリは至極楽しげに事の経緯を話し始めた。学校からの帰り道に女の吸血鬼に噛まれたこと。気を失って目が覚めると夜でも目が利くようになっていたこと。日光と銀が駄目になったこと。夜なら空を飛べること。そして不老だと言った彼に死にはするんだ?と問えば牙が折れると血が吸えなくなって死ぬらしいと返された。それでも随分は長生きできるそうだ。自分の身に起こった劇的な変化に戸惑う様子もない彼と対象的に、わたしはといえばもう、すっかり気が遠くなってしまって、できることなら今すぐにでも布団に潜ってしまいたかった。信じ難いことに、サソリの話はどれも信憑性があったのだ。 ところで彼は、どうしてわたしのところに来たのだろう。 「そうだ、噛まれた人間が吸血鬼になるっていうのは絶対じゃないらしいぜ」 「へえ…」 「だから、これからよろしくな」 「え?」 にこりと似合わない笑顔を作ったサソリに嫌な予感が走る。 「俺の餌」 さっきから圧倒されすぎて、正しい判断とは何かわからなくなっていたのかもしれない。わたしがゆっくり頷くとサソリは今度こそ彼らしい笑みを浮かべて自分の唇を舐め、それからゆっくりとわたしの首筋に噛み付いた。鈍い痛みが走ったけれど、彼への果てしない献身だと思うとしばらく浸っていたくなった。限りなく彼と遠くなったことに泣きそうだったのだ。 |