「あ、いた」


教えてもらったとおり、宿の前を流れる川の上流をずっと行ったところに水月はいた。やっぱすごいなあ香燐は。どうしてこんなに離れたとこにいる人のチャクラを感じ取れるのだろう。


「水月」


今日中にはここを発つのに朝から出掛けてしまった重吾と水月を捜しにわたしと香燐は宿を出た。どうも二人で行動しているわけじゃないそうなので、こちらも二手に別れようということになった。そいで森にいる重吾と河原にいる水月をどっちがどっちを捕まえるかというのはものの数秒で決まって、細かい位置を説明しづらい森の重吾(森のくまさんみたいになってしまった)を香燐が、川に沿っていけば辿り着く水月をわたしが、迎えに行くことになった。説明云々と香燐は言ったけど、正直、森のくまさんが水月だったとしてもわたしが水月を迎えに行くことになっていたのは間違いないだろう。香燐と水月はいつになったら仲良くなるのだろうか。ううんべつに、にこにこ肩組んでる二人を見たいわけじゃないけど。何だかんだで二人がぎゃーぎゃー喧嘩してるのは楽しいから割とすきだ。

名前を呼ぶとわたしに向いた水月の髪の毛が太陽の光に照らされて薄水色になってる。綺麗だなあ。


「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよー。こんなとこで油売ってる場合じゃないって、今日中にここ出るんだから」
「ああ、そうか」


水月はにこりと笑った。それからまた流れる川を眺めだしてしまったのでわたしは更に近寄って「早く帰ろうよ」と言うのだけど彼はわたしの手を掴んで下に引っ張るものだからしょうがなく隣に座った。百地再不斬のをパクって今は彼のである首斬り包丁は水月のすぐ後ろに置いてある。


「帰らないの?」
「いいじゃん、まだ」
「また香燐が怒るよ」
「ほっとけ」


ほっとけるわけない。でもほっとけないのは水月もだからわたしはまるで板に挟まれたみたいにどうすればいいのかわからなくなる。どうしよう香燐。
水月はときどきこうしてふらふらどっかに行ってぼけーっとすることがある。蛇をやってまだそんなに経ってないと思うけどそれでも何回かあった。なんでだろうと思うけどわたしの考えでは大蛇丸に捕まってて自由を拘束されていた反動なのかなと思った。わたしは蛇に最後に入ったから実際には見てないけど水月は水の容器に閉じ込められていたらしい。すげえ。わたしだったら溺死だけど水月は忍術で水になれるからねえ。
そんなこんなで香燐ごめんと思いながらもおしゃべりをしているとふいに水月が顔を逸らした。逸らしたっていうかわたしの後ろを見たって言った方が正解だ。何故なら振り返ってみるとそこにはサスケがいたから。


「あれ、宿で待ってるって言ってなかった?」
「買いたいものがあった」
「えー…用は昨日の内に済ませとけって言ったのサスケなのに」
「結局今日でも昨日でも同じだったろ」


ああ水月と重吾が出掛けちゃったから。もーいろいろ予定狂ってるよ。わたしは立ち上がってサスケのとこに行こうとしたけどついでにこのまま三人で帰ろうと思い水月の肩を叩いてほら帰ろと言ったのだけど水月はわたしを見上げてにこりと笑ってわたしがこいつ笑顔ぶれないなあと完成度に感嘆していたらすかさず体を後ろに傾けてわたし越しにサスケを見た。


「サスケもおいでよ」
「なんでよ。もう帰るよ」
「いいじゃんサスケいたらあいつも怒んないし」
「俺を巻き込むな」
「まあまあ」


水月はわざと香燐を怒らせようとしてるのではないか。もういいやそれならわたしはサスケと帰るよ。


「知らない。サスケ、帰ろ」
「あれ?」
「水月なんか置いてく」
「待って待って」


すたすたとサスケのとこまで行くとサスケは初めて会ったときから変わらない何を考えてるかわからないポーカーフェイスでわたしを見下ろしたあとちらりと水月の方を見た。その隙にサスケの手を取って帰ろうとすると反対の手を水月に掴まれた。動きの速い奴め。サスケとわたしと水月は三人で並んで歩き出す。サスケがちょっと遅れてる。


ひどいなあ」
「言うこと聞かないのがいけない」
「おい手を離せ」
「せっかくだからこのまま帰ろうよ。仲良しだ」
「楽しいね」
「…おまえら少しは人の目を気にしろ」


とか言いながらサスケはわたしの手を振り払わない。わたしも言うこと聞かない水月の手を振り払わない。サスケが嫌そうな顔をしてるのをわたしは気付いてるけど気を遣ってあげないで更にぎゅうっと握って歩く。諦めたのかサスケが今度は歩くスピードを上げた。(随分恥ずかしいようだ)それを見た水月が楽しそうにこれまた歩調を速めたおかげでわたしは二人に引っぱられる形となってしまった。速い!と言っても目的は違ったはずなのに息を合わせた二人はわたしを無視する。


「いい天気だねーサスケ」
「そうだな」


にこにこ笑う水月に釣られてかサスケも少し笑ったのを見て、わたしの心臓がきゅうっとなった。時間が止まればいいと思うんだ。この二人が幸せでいられる世界が綺麗だから、わたしはそれをずっと見ていたいとかなり本気で思う。

結局遅いと心配した香燐と重吾が迎えに来てくれて、わたしたち三人を見てびっくりした。それから呆れたように笑って、わたしが五人で手を繋いで帰ろうと言ったら却下されてしまったけど、みんなでのんびり宿まで帰った、幸せな時間。