ふんわりと花の匂いが香った。ああ素敵な香りだなあ。


「ここにいたのか」


くしゃくしゃと、周りの花々を踏み付けてやってくるサスケにちょっとむっとして、「それ以上近寄んないでよ」と歩くのを制止させたらどうやら深読みしたらしく眉をひそめて立ち止まった。「どうした?」でもサスケはわたしには絶対怒らない。まあサスケはあんまり怒んないけどね。香燐と水月の喧嘩だって大抵はほったらかすし。あの二人はサスケが大好きなんだからもっと構ってあげればいいのに。


?」
「ん、花がね、」
「…ああ」


言うくせに変わらずくしゃくしゃと踏み進めていく彼に苦笑いをして「ひどいなあ」と言うと「しょうがないだろ」と無表情で返された。「だいたいおまえだって踏んだろ」「まあね」サスケがわたしの隣に腰を下ろした。その様を見て、ふっと、イタチさんに似たなあと思った。木の葉にいたころの、優しい物腰の、あの人。ああ懐かしい。


「なんだかイタチさんに会いたくなったよ」
「…無茶言うな」


だってねサスケ、わたしイタチさんに憧れてたんだよ、知らないでしょ。あなたがあの人に憧れていたようにわたしだってあの人が大好きだったんだよ。素敵過ぎて、高すぎて、届かないし今だって背伸びしたって駄目なんだ。どうすればいいと思う?会いたくても会うことが許されないなんて、悲しいよ、ずるいよ。ずるいよサスケ。


「サスケ、手」


彼の手をぎゅっと握ると骨張っててちっとも温かくなかった。サスケはこの手で何度イタチさんに触れたんだろう。もっと小さくて、こうなることを少しも予想できてなかったサスケの手を、あの人は何度握ったのだろう。


「ずるいよ、サスケが羨ましい」
「…おまえはずっと、蛇をやってる時からそう思ってたのか」
「うん。サスケはずるい」
「俺が憎いか」
「…べつに」


べつにそういうわけじゃないよ。わたしはイタチさんの後ろ姿に憧れてはいたけど、でもサスケもすきだったんだ。ずるくて賢くて優れてて醜くて美しい、サスケはそんな奴だ。嫌いになんて、なれないよ。里を抜けて追い掛けてやっと一緒に行動を共にできてそれでやっとここまで来れたのに、まさか「俺を殺したくないのか」そんな声で言わないでよ。殺せるわけないじゃん馬鹿。なんでよなんでよ


「わたしもう誰も失いたくないんだよ」


そんな優しい目をしないで。穏やかな呼吸が乱れる。えぐえぐと嗚咽が漏れて膝に顔を埋めると頭を撫でられた。「ごめん」サスケが謝る声を初めて聞いた。


「失わせてごめん」


君はばか。この世で一番大好きだったはずのあの人をその手に掛けたんだ。なんで大事だって気付かなかったの。大切だったんでしょう、死ぬ前に一度くらい何か、イタチさんが報われること、何かしてあげといてよ。ばか、おおばかものめ。

わたしはおまえを殺せないよ、そんな技量も度胸もないもの。でもねえ、君を守ることはできるよ。きっとね、守りきることはできないかもしれないけど、でも頑張るよ。あの人が命を懸けて守った君だからね、君の為に死ねばあの人に近づけるかな、なんて今、血迷った。

(君の為に死ぬ) (そうしたら二人とも救われる気がした)