隣の家に住んでいるデイダラくんは眩しい髪の毛の持ち主だった。初めて彼を見たときはうわあと思ったけど、地毛が真っ黄色なんてそんな珍しいものではない。わたしの友達にも紫がいる。そういえばあの子は三個年上でアカデミーを卒業する年齢だけど卒業試験が苦手な忍術だからできなかったらどうしようと嘆いていた。ついこの間まで一番家が近い子はあの子だったけど突然引っ越してきたデイダラくんの出現によって一人ぼっちだったわたしの遊び相手ができた。紫色の子は勉強が忙しくてここのところ遊んでくれなかったのだ。デイダラくんのことを話すとよかったなーと頭を撫でてくれて、それからやっぱり卒業試験緊張すると顔を強張らせて言った。男の子のくせに上がり症だ。これは男の子に対する偏見だろうか。
とにかくお隣りさんになったデイダラくんはお母さん同士の話を聞くに同い年らしく、ここに越す前は岩隠れの郊外に住んでいたそうだ。アカデミーに通うのが不便だったのでお父さんの昇進に合わせてこちらに来たらしい。ここはアカデミーと仕事場の丁度中間地点なんだそうだ。当時は気付かなかったが、デイダラくんのお父さんはかなりいいところに勤めていた。

初対面に弱いわたしはもちろんデイダラくんなんかとすぐには友達になれなくて、意気投合する母親同士とは逆にいつも何かをいじっているデイダラくんのそばで毎日本を読んでいた。やっと向こうから話しかけてきたのは、彼がいじっているものが粘土に固定されてからのこと、越して来てから一週間のことだった。


「なあおまえもやる?」
「え?」
「ほらよ」
「あ、ありがとう」


正直粘土はすきじゃなかった。手触りが気持ち悪いし臭いもよくない。何より爪に詰まるのが嫌だった。指の腹で受け取って爪で引っ掻かないように気をつけてそれを玩んだ。というか昨日爪を切ったばっかだったので杞憂だったようだ。今まで敬遠していた粘土はいい物なのか、記憶の中のより柔らかくて思い通りの形に変形した。


「おまえセンスねえなあ…うん」
「そんなことない」
「オイラの見てみろ。すげえだろ」
「うえ、何これ」
「クモだよ!見りゃわかんだろ!うん!」
「無茶だよ…」


球体に六本のぺらぺらした何かがくっついている。そう言われればクモに見えなくもないがいや見えない。無駄に可愛い造形なのが気になるけどこれ以上批評すれば間違いなくこの人は怒るだろう。
しばらくデイダラくんが粘土をいじる姿を見ていた。初めての試みだから怒られるかなと思ったけど意外にも彼は何も言わなかった。そのあと作った鳥らしき物体を眺めながら、デイダラくんはぼそりと何か呟いた。聞き取れなくて「なに?」と顔を近づけて聞き返すと粘土を見ていたデイダラくんが顔を上げて大きな青い目でわたしを捉えた。


「これが動いて、オイラの合図で爆発したらすげえと思わねえ?…うん」


目がきらきら輝いていた。わたしはこの鳥が飛んでデイダラくんの合図で爆発するところを想像した。


「…思わない」
「なんだよ」
「もったいないと思う」
「わかってねえな
「何が」
「一瞬の美だ」


そう無邪気に語るデイダラくんがとても眩しくて、とても遠くに感じたのだ。それが漠然と嫌だなあと思わせて、なんとか引き止めたくて長くないデイダラくんの髪の毛を引っ張った。


「いった!」
「あ、ごめん、…粘土がくっついてた」
「あ、ほんとか?さんきゅー」
「ううん」


嘘ついた。触った髪の毛の感触がとても艶やかだと思った。


「デイダラくん髪の毛綺麗だね」
「そーか?」
「伸ばしたりしないの?」
「いつかするつもり」
「そうなの?」
「おう」
「楽しみだ」
「そーか」


そう言って照れ臭そうに襟足を梳くデイダラくんはもうわたしの近くに戻って来ていた。さっきの距離は感じない。よく見たら彼の襟足は普通の短髪の人に比べたら長かった。もうこの頃から伸ばし始めていたのだろう。耳を隠す髪に触れた、右手にはその感触が残っている。